Brush Up! 権利の変動篇

意思表示の過去問アーカイブス  債権小問集合 平成16年・問4

第三者の弁済・解約手付・損害賠償の額の予定・口頭の提供


共に宅地建物取引業者であるAB間で所有の土地について,平成16年9月1日に売買代金3,000万円(うち,手付金200万円は同年9月1日に,残代金は同年10月31日に支払う。)とする売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成16年・問4)

1.「本件売買契約に利害関係を有しないは,同年10月31日を経過すれば,の意思に反しても残代金をに対して支払うことができる。」

2.「同年10月31日までにが契約の履行に着手した場合には,手付が解約手付の性格を有していても,が履行に着手したかどうかにかかわらず,は,売買契約を解除できなくなる。」

3.「の債務不履行によりが売買契約を解除する場合,手付金相当額を損害賠償の予定とする旨を売買契約で定めていた場合には,特約がない限り,の損害が200万円を超えていても,は手付金相当額以上に損害賠償請求はできない。」

4.「が残代金の受領を拒絶することを明確にしている場合であっても,は同年10月31日には2,800万円をに対して現実に提供しなければ,も履行遅滞の責任を負わなければならない。」

【正解】

× × ×

1.「本件売買契約に利害関係を有しないは,同年10月31日を経過すれば,の意思に反しても残代金をに対して支払うことができる。」

【正解:×昭和55年・問12・肢158年・問10・肢4,平成5年・問6・肢1,11年・問5・肢1,

◆第三者の弁済 ⇒ 参照 : 昭和47年

  (売主,債権者)− (買主,債務者)

               (法律上,利害関係のない第三者)

 第三者は,法律上の利害関係がないときは,債務者の意思に反して弁済をすることができません。(474条2項,判例)

 履行期を過ぎていてもこのことには変わりがありません。したがって本肢は誤りです。

 利害関係を有する第三者とは,「弁済をすることに法律上の利害関係を有する者」を意味する。(最高裁・昭和39.4.21)

 ⇔ 対比 保証と弁済の違い
 第三者は,主たる債務者の意思に反しても,保証人になることができる。(462条2項)
(主たる債務者の委託があるか,意思に反しているかで違うのは,求償の範囲が違うだけ。)

法律上の利害関係人と事実上の利害関係人の区別 

法律上の利害関係人 =物上保証人・担保不動産の取得者である第三者・

 後順位担保権者・借地上の建物の賃借人など。

 → 債務者の承諾がなくても第三者弁済できる。

事実上の利害関係人 =債務者の友人・知人・親族

 「法律上の利害の関係のない第三者」となる。

 → 債務者の承諾がないと第三者弁済できない。

▼注意
 単なる保証人による債務の弁済は,自らが負担している保証債務の弁済であり,第三者の弁済にはなりません。他人の債務を保証した者は,他人がその債務を履行しないときには,その債務を他人に代わって履行する責任を負います。(保証人,連帯保証人,連帯債務者などによる弁済は第三者としての弁済ではなく,債務者とともに債務を負担する者としての弁済であることに注意)

●参考問題
1.「からの借入金100万円の弁済について,の兄は,が反対しても,の承諾があれば,に弁済することができる。」(宅建・平成5年・問6・肢1)

【正解:×事実上の利害関係人=親友

  (債権者)− (債務者)

          (の親友)

 たとえ債権者の承諾があったとしても,法律上の利害関係を有しない第三者であるは,債務者の意思に反して弁済をすることはできない。

2.「が,に対して不動産を売却して,所有権移転登記及び引渡しをした場合に,の親友が,に直接代金の支払いを済ませても,それがの意思に反する弁済である場合には,の代金債務は消滅しない。」(宅建・平成11年・問5・肢1)

【正解:事実上の利害関係人=兄

  (売主,債権者)− (買主,債務者)

               (の兄)

 は,債務者の意思に反して弁済をすることはできないので,の意思に反する場合は,に弁済しても,この弁済は無効になり,の代金債務は消滅しない。

 は,不当利得として受け取った金額をに返還しなければならない。

●過去問研究
 ⇒ 昭和47年 (クリックすれば,別画面で見られます。)
 第三者の弁済についてまとめている良問。

2.「同年10月31日までにが契約の履行に着手した場合には,手付が解約手付の性格を有していても,が履行に着手したかどうかにかかわらず,は,売買契約を解除できなくなる。」

【正解:×昭和56年・問8・肢2,63年・問6・肢3,平成4年・問7・肢3,6年・問6・肢2,12年・問7・肢2,

◆解約手付

  (売主,債権者) ―――― (買主,債務者)
 履行に着手
  ↓
 Bが履行に着手していなければ手付解除できる。

 は,相手方が着手していなければ,自ら履行に着手していても手付による解除をすることができるので,「が契約の履行に着手した場合には,が履行に着手したかどうかにかかわらず,は,売買契約を解除できなくなる。」とする本肢は誤りです。(557条1項,判例)

〔判例〕自らが契約の履行に着手していても相手方が着手前であれば,
  ・買主は、手附を放棄して
  ・売主は、手附の倍額を支払うことによって
解除できる。(最高裁・昭和40.11.24)

557条1項は強行規定ではなく任意規定なので,当事者どうしで,<相手方が履行に着手した後でも手付放棄によって解除できる>という特約を締結することができます。(大審院・昭和14.5.26)

●過去問研究
 ⇒ 昭和56年・問8 (クリックすれば,別画面で見られます。)
 債務不履行による解除(売主の債務不履行),合意解除では,原状回復義務により,手付金の返還義務が売主に生じることをベースにした事例問題。
●履行の着手
判例での履行の着手の定義を見てみましょう。手付による解除は,「相手方が履行に着手しているとき」は解除できないとされています。『履行に着手』なので,当然,履行行為そのものではなく,『その一部またはその前提をなす行為』であればよいとされています。 

   判例での『履行の着手』の定義

 「履行に着手」とは,債務の内容たる給付の実行に着手すること,つまり,客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし,又は,履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す。(昭和40.11.24)

履行期の前後で,「履行の着手」を判例はどう判断しているか?

・履行期が到来した後の履行の提供は,「履行の着手」にあたる。

・履行期前の行為であっても,当事者が履行期前には履行に着手しない旨合意している等の特別の事情がない限り,履行期前でも,履行の準備とは限らず,履行の着手となり得る場合がある。(昭和41.1.21)

3.「の債務不履行によりが売買契約を解除する場合,手付金相当額を損害賠償の予定とする旨を売買契約で定めていた場合には,特約がない限り,の損害が200万円を超えていても,は手付金相当額以上に損害賠償請求はできない。」

【正解:昭和60年・問2・肢4,平成2年・問2・肢4,6年・問6・肢3・肢4,14年・問7,

◆損害賠償額の予定

  (売主,債権者) ―――― (買主,債務者)

 の債務不履行により
 が売買契約を解除。
⇒ Aは,損害賠償額の予定を超えて請求できない。

 当事者があらかじめ債務不履行の場合の損害賠償の額を定めておくことを『損害賠償額の予定』といいます。

 損害賠償の予定額を定めていた場合には,債務不履行の事実を立証するのみで,損害の発生や損害額を立証しなくても予定額の賠償を請求できます。(大審院・大正11.7.26)

 しかし,損害賠償の予定額を定めていた場合には,当事者は,実際の損害額がそれよりも多くてもまた少なくても,原則として,予定額の増減を主張することはできません。(420条1項)→この例外については,平成14年・問7・肢2,肢3を参照。

 本肢では,手付金相当額200万円が損害賠償の予定額となっているので,の損害が200万円を超えていても,は手付金相当額以上に損害賠償請求はできません。

●過去問研究
 ⇒ 平成14年・問7 (クリックすれば,別画面で見られます。)
 損害賠償額の予定について多面的に出題された総合問題。

4.「残代金の受領を拒絶することを明確にしている場合であっても,は同年10月31日には2,800万円をに対して現実に提供しなければ,も履行遅滞の責任を負わなければならない。」

【正解:×初出題

◆口頭の提供

  (売主,債権者) ―――― (買主,債務者)

 が残代金の受領を拒絶
 することを明確にしている。   ⇒ 現実に提供しなくても,口頭の提供でよい。

 債権者が正当な理由なく,受領を拒絶している場合では,現実の提供をしなくても,口頭の提供をすれば,履行遅滞の責任は免れるので,本肢は誤りです。

■弁済の提供

 弁済とは,「債務者が給付を実現して債務者の利益を充足させる行為」をいい,債務者が「弁済の提供」をして,債権者が「それを受領する」という過程を経て完結します。

 『弁済の提供』をすれば〔債務者が給付を実現するためにできることを全てしたこと〕,債務者は履行遅滞の責任を免れます。(492条)

 弁済の提供の方法は,原則としては『現実の提供』をすること〔債権者が受領する以外には何もしなくてもよいほどに,債務者が債務の本旨に従って給付の実現に必要なことをすること〕を要します。しかし,債権者が正当な理由なく,あらかじめ受領を拒否していたり,債務の履行について債権者の協力が必要なのに債権者が協力しないときにまで,現実の提供を債務者に要求するのは酷なので,民法では,そのようなときには『口頭の提供〔弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すること〕で足りるとしました。(493条)

●要点●
 弁済の提供をすれば,弁済の実現がなされなくても,それは債務者の責任ではないので,債務者は履行遅滞を免れる。

■弁済の提供

現実の提供・・・原則
|  定められた時期・場所で弁済できる状態にすればよい。
|  (例) 目的物を指定された時間・場所に持参したが,債権者が不在or来なかった。
|                                  (最高裁・昭和39.10.23)
口頭の提供・・・例外 

    ⇒ ただし,債務者がするべき弁済の準備がすべて整っていることが前提。  

  (1)債権者が正当な理由なく,あらかじめ受領を拒否しているとき
  (2)債権者の協力が必要なのに債権者が協力しないとき

弁済を受領しない意思が明確なときには,口頭の提供も不要。(最高裁・昭和32.6.5)

上の(1)との違いは,(1)では債権者が翻意して受領できる可能性があるが,口頭の提供も不要なケースは債権者が翻意する可能性がゼロの場合です。

口頭の提供をした上での弁済供託(494条)については,こちら(弁済の提供・弁済供託)をご覧ください。


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