宅建過去問  権利の変動篇

抵当権の過去問アーカイブス  平成21年・問7  法定地上権の成否


 法定地上権に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び判決文によれば、誤っているものはどれか。(平成21年・問7)

(判決文)

 土地について1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより1番抵当権が消滅するときは、地上建物のための法定地上権は成立しないものと解するのが相当である。

1 土地及びその地上建物の所有者が同一である状態で、土地に1番抵当権が設定され、その実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

2 更地である土地の抵当権者が抵当権設定後に地上建物が建築されることを承認した場合であっても、土地の抵当権設定時に土地と所有者を同じくする地上建物が存在していない以上、地上建物について法定地上権は成立しない。

3 土地に1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なっていたとしても、2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人となれば、土地の抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

4 土地の所有者が、当該土地の借地人から抵当権が設定されていない地上建物を購入した後、建物の所有権移転登記をする前に土地に抵当権を設定した場合、当該抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

<コメント>  
 法定地上権の問題を解く根拠は民法388条と判例〔競売不動産評価マニュアルでは,もっと細かくなっていますが,あくまでも判例に基づいて解答すべきです〕で,代表的な判例については知っておく必要があります。

 本問題は,各肢とも,過去問でも出題歴のあるものであり,正答率は高くなっています。なお,正解肢〔判決文ソノママの出題〕は平成14年,18年で出題歴がありました。

●出題論点●
 (肢1) 抵当権設定時に,土地及びその地上建物の所有者が同一である場合に,その実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは,法定地上権が成立する。

 (肢2) 〔判例〕 抵当権設定時に,地上建物が存在しない場合は,抵当権設定後に建物が建築されるのを承認しても,法定地上権は成立しない。

 (肢3) 〔判例〕 1番抵当権の設定時に土地と地上建物の所有者が異なっていれば,2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人であったとしても,地上建物について法定地上権は成立しない

 (肢4) 〔判例〕 抵当権設定時に,地上建物の所有権移転登記がされていなくても,土地と地上建物を同一人が所有していれば,地上建物について法定地上権が成立する。

【正解】

×

 正答率  73.3%

法定地上権のKEY

   土地の上に建物がある
   土地・建物とも同一所有者        抵当権の実行(競売) 

 ―――――――――――――――――――――――→
  土地or建物の一方or双方に          ⇒ 土地・建物の所有者が異なる
  抵当権が設定された                       

 法定地上権の成立は,抵当権設定者と抵当権者との特約によっても排除することはできない。〔大審院・明治41.5.11〕

 抵当権の実行による競売だけでなく,債務者の有する土地建物に対して債務名義に基づいて強制執行が行われた結果,土地・建物の所有者が別々になった場合にも法定地上権が成立する。(民事執行法81条)

1 土地及びその地上建物の所有者が同一である状態で、土地に1番抵当権が設定され、その実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

【正解:
◆法定地上権の成立

 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合に,その土地と地上建物の一方または双方につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その地上建物について,地上権が設定されたものとみなされ,法定地上権が成立します(民法388条)

●条文確認
(法定地上権)

第388条  土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

●法定地上権
1) 法定地上権の存続期間と地代は,当事者の協議によります。

 協議が調わない場合,存続期間は30年(借地借家法3条),地代は当事者の請求により裁判所が定める(民法388条後段)とされています。

2) 法定地上権は特約によって排除することはできない。

 法定地上権の成立は任意規定ではなく強行規定なので,当事者が,特約によって,あらかじめ法定地上権の成立を排除することはできません(判例)

2 更地である土地の抵当権者が抵当権設定後に地上建物が建築されることを承認した場合であっても、土地の抵当権設定時に土地と所有者を同じくする地上建物が存在していない以上、地上建物について法定地上権は成立しない。

【正解:昭和62年・問5・肢2
◆〔判例〕 抵当権設定時に,建物が存在しない場合,法定地上権は成立しない。

 抵当権設定時に,地上建物が存在しない場合は,抵当権設定後に建物が建築されるのを承認しても,法定地上権は成立しません(民法388条,判例)

抵当権設定時に,建物が存在せず,建築予定に過ぎない場合,法定地上権の成立は否定されています(判例)

●判例●
 土地に対する抵当権設定の当時、当該建物は未だ完成しておらず、しかも更地としての評価に基き抵当権を設定したことが明らかであるときは、たとえ抵当権者において右建物の築造をあらかじめ承認した事実があっても、民法第388条の適用を認めるべきではない(最高裁・昭和36.2.10)

3 土地に1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なっていたとしても、2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人となれば、土地の抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

【正解:×平成14年・問6・肢3平成18年・問5・肢3
◆〔判例〕 一番抵当権設定当時土地と地上建物の所有者が異なっている場合

 1番抵当権の設定時に土地と地上建物の所有者が異なっていれば,2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人であったとしても,地上建物について法定地上権は成立しないとされています(民法388条,判例)

●判例
 土地を目的とする一番抵当権設定当時土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物が同一人の所有に帰した後に後順位抵当権が設定されたとしても、抵当権の実行により一番抵当権が消滅するときは、法定地上権は成立しない(最高裁・平成2.1.22)

4 土地の所有者が、当該土地の借地人から抵当権が設定されていない地上建物を購入した後、建物の所有権移転登記をする前に土地に抵当権を設定した場合、当該抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

【正解:〔地上建物に所有権保存登記がされていない場合〕昭和61年・問5・肢1
◆〔判例〕 抵当権設定時に,土地と地上建物を同一人が所有していても,建物について所有権移転登記がされていない場合

 抵当権設定時に,地上建物の所有権移転登記がされていなくても,土地と地上建物を実体として同一人が所有していれば,地上建物について法定地上権が成立します(民法388条,判例)

 ⇒ 所有権移転登記を経由していることは法定地上権成立の要件ではない。

抵当権設定時に,土地と地上建物が同一人が所有していれば,地上建物が未登記であったり,土地が前の所有者の名義で登記されていたとしても〔土地について所有権移転登記がされていない場合〕,地上建物について法定地上権が成立します(判例)

●判例
 土地及びその地上建物の所有者が建物につき抵当権を設定したときは、土地の所有権移転登記を経由していなくても、法定地上権の成立を妨げない(最高裁・昭和53.1.26)

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