宅建業法 実戦篇

監督処分の過去問アーカイブス 平成7年・問50


甲県に本店 (従業者13人),乙県に支店 (従業者5人) を有する個人である宅地建物取引業者に対する監督処分に関する次の記述のうち,宅地建物取引業法の規定によれば,正しいものはどれか。(平成7年・問50)

1.「は,本店の専任の取引主任者が2人となったときは,直ちに宅地建物取引業法違反となり,甲県知事は,に対して業務停止処分をすることができる。」

2.「が引き続いて1年以上宅地建物取引業に係る事業を休止したときは,甲県知事は,の免許を取り消さなければならない。」

3.「が支店において宅地の売買契約を締結する際,宅地建物取引業法第35条の規定に基づく重要事項の説明をさせなかったときは,乙県知事は,及び支店の専任の取引主任者に対して,必要な指示をすることができない。」

4.「が支店において宅地の売買契約を締結した場合で,宅地建物取引業法第37条の規定に基づく書面を交付しなかったときは,乙県知事は,1年以内の期間を定めて,支店だけでなく,本店における業務の停止を命ずることができる。」

【正解】

× × ×

1.「は,本店の専任の取引主任者が2人となったときは,直ちに宅地建物取引業法違反となり,甲県知事は,に対して業務停止処分をすることができる。」

【正解:×

◆専任の取引主任者数が法定設置数−事務所では,5人に1人以上−に満たなくなったとき

●問題文の読解

 イジワルく見ると,<本店の専任の取引主任者が2人となったとき>というだけでは,その場合の従業者数に必要な専任の取引主任者数について宅建業法違反かどうか判断できません。

 例えば,従業者が9人や10人となった場合に,専任の取引主任者が2人であっても宅建業法違反にはならないからです。

 しかし,従業者が11人〜15人となった場合の専任の取引主任者の法定設置数は3人なので,その場合に専任の取引主任者が2人であれば宅建業法違反になります。

 本肢はここで考え込んでしまうとドツボにはまります。⇒専任の取引主任者が1人退職し,このほかに従業者は変わらないというのならば,従業者数は13人,専任の取引主任者数は2人なので明らかに法定設置数を満たしていないことになるので,考え込まなくてよいのですが。

 実は,本肢は,そこがポイントなのではなく,一般に専任の取引主任者の法定設置数に不足があった場合にどうなるかということを問うているのだと思います。2人というのは当惑させるための一種のノイズと考えられます。

 宅建業者は,既存の事務所等が専任の取引主任者の法定設置数の規定に抵触するに至ったとき<取引主任者数が法定設置数を満たさなくなったとき>は,2週間以内に,必要な措置を執らなければなりません(宅建業法・15条3項)⇒違反すると,業務停止処分を受けることがある(宅建業法・65条2項2号)。情状が特に重いときは免許取消。

 しかし,専任の取引主任者数が法定設置数を満たさなくなったとき,直ちに,宅建業法違反となり,業務停止処分や免許取消処分になることはないので,本肢は誤りです。

2.「が引き続いて1年以上宅地建物取引業に係る事業を休止したときは,甲県知事は,の免許を取り消さなければならない。」

【正解:×ヒッカケ問題

◆1年以上宅建業を休止したとき−免許取消要件

 都道府県知事又は国土交通大臣は,宅建業者が,免許を受けてから一年以内に事業を開始せず,又は引き続いて一年以上事業を休止したときは,当該宅建業者の免許を取り消さなければいけません(宅建業法・66条1項6号)⇒名義貸し等の防止のためです。

 本肢は一見正しいように見えますが,免許の取消処分はに免許を与えた国土交通大臣しかすることができないので,<甲県知事はの免許を取り消さなければならない。>とする本肢は誤りです。

3.「が支店において宅地の売買契約を締結する際,宅地建物取引業法第35条の規定に基づく重要事項の説明をさせなかったときは,乙県知事は,及び支店の専任の取引主任者に対して,必要な指示をすることができない。」

【正解:×

免許権者以外の知事も,指示処分をすることができる

 『宅建業者が取引主任者に重要事項の説明をさせなかったときは,業務停止処分か免許取消ではないの?』と思ったかもしれません。

 しかし,一般に,宅建業者が宅建業法に違反したときには,都道府県知事は指示処分をすることができます(宅建業法・65条1項,同1項1号)。つまり,『重要事項の説明をさせなかったときは,業務停止処分か免許取消しかできない』ということではありません。

 宅建業法では,<重要事項の説明をさせなかったときは,免許権者は,業務停止処分をすることができ,情状が重いときには免許を取消さなければならない>ことになっています。

 したがって,重要事項の説明をさせなかったときには,免許権者は,指示処分か業務停止処分のどちらかを任意にできるということになっているのです。

 都道府県知事は,当該都道府県の区域内において業務を行う<他の都道府県知事業者や国土交通大臣免許業者>に対しても指示処分をすることができるので(宅建業法・65条3項),<乙県知事が国土交通大臣免許業者であるに対して指示処分ができない。>とする本肢は誤りです。

都道府県知事は,当該都道府県の区域内において,他の都道府県知事の登録を受けている取引主任者が取引主任者として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたときは,指示処分をすることができます(宅建業法68条1項1号,3項)

宅建業法の改正(平成7年4月19日法律第67号)により,取引主任者への指示処分が追加されました。したがって,肢4はこの改正前の規定で作問されており,出題当時は,取引主任者への指示処分はありませんでした。

●重要事項について<宅建業者への指示処分>が問題文に出ている出題例
 宅建業者が宅建業法に違反したときは,一般的に,指示処分をすることができます。これは重要事項説明をさせなかった場合も同じです。

 宅建業法65条2項2号では,<35条1項・3項に違反したときは業務停止処分をすることができる>とありますが,このことは<35条1項・3項に違反したときに指示処分をすることができない>と読んではいけません。

 平成10年・問39・肢4・・・重要事項説明書〔35条書面〕に誤りがあったとき

 平成7年・問50・肢3・・・宅建業者が重要事項の説明をさせなかったとき

●重要事項説明と取引主任者についての出題例
【宅建業者の命令を拒んで重要事項説明をしなくても事務禁止処分にはならない】昭和61年・問46・肢2

2.「取引主任者は,宅建業者の命令を拒んで説明を行わなかった。この場合,は,都道府県知事から,取引主任者としてすべき事務の禁止処分を受ける。」

【正解:×

◆取引主任者が命令を拒んで重要事項説明をしなかった場合

 取引主任者のが宅建業者の命令を拒んで説明を行わなくても,宅建業者は別の取引主任者に説明させればいいだけの話なので,が都道府県知事から取引主任者としてすべき事務の禁止処分を受けることはありません。

4.「が支店において宅地の売買契約を締結した場合で,宅地建物取引業法第37条の規定に基づく書面を交付しなかったときは,乙県知事は,1年以内の期間を定めて,支店だけでなく,本店における業務の停止を命ずることができる。」

【正解:

◆免許権者以外の知事も,指示処分・業務停止処分をすることができる

 37条書面を交付しなかったときは,業務停止処分の対象になります(宅建業法・65条2項2号)

 免許権者以外の都道府県知事であっても,当該都道府県の区域内において業務を行う<国土交通大臣免許業者や他の都道府県知事免許業者>に対して,1年以内の期間を定めて,全部または一部の業務停止処分をすることができます(宅建業法・65条2項,4項)

 ←ただし,免許権者以外の都道府県知事は,<営業保証金・保証協会に関するもの>,<取引一任代理業者の行う取引一任代理等に係るもの>については業務停止処分を命じることはできません。(免許権者が業務停止処分を命じることができる範囲よりは少ない。)

 したがって,乙県知事は,1年以内の期間を定めて,支店だけでなく,本店における業務の停止を命ずることができます。(全部または一部の業務停止処分)

 都道府県知事  当該都道府県の区域内において,国土交通大臣免許業者や
 他の都道府県知事免許業者>に対して,
 指示処分・業務停止処分をすることができる。

 ただし,それらの業者に対して,免許取消処分をすることはできない。

 国土交通大臣  都道府県知事免許業者に対して,指示処分・業務停止処分・
 免許取消処分をすることはできない。

 指示処分・業務停止処分・免許取消処分をすることができるのは,
 国土交通大臣免許業者に対してのみ。


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