宅建1000本ノック
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改正法一問一答2004
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民法 根抵当権の元本確定事由,根抵当権者からの確定請求,不動産質権,債権質,
次の記述は,○か×か。 |
1.「元本の確定期日を定めなかった場合,根抵当権者は,債務者との取引が終了しない限り,担保すべき元本の確定を請求することはできない。」 |
2.「元本の確定期日を定めなかった場合,根抵当権者は,担保すべき元本の確定を請求でき,請求の時より2週間後に担保すべき元本が確定する。」 |
3.「不動産質権者は,担保不動産収益執行の開始があった場合でも,質権の目的である不動産の用方に従い,その使用収益をすることができる。」 |
4.「指名債権は,その譲渡について債権の証書の交付を要しない場合でも,その債権の証書の交付がなければ,(その指名債権についての)質権設定の効力は発生しない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | × |
1.「元本の確定期日を定めなかった場合,根抵当権者は,債務者との取引が終了しない限り,担保すべき元本の確定を請求することはできない。」 |
【正解:×】 ◆取引の終了は元本の確定事由から削除された−債権譲渡の前提としての確定 企業・金融機関が,(合併や統合などの企業再編,不良債権処理などにより),債権譲渡しようとする場合には,通例,企業間の取引での債権には根抵当権が設定されていることが多いことから,根抵当権を確定させる必要があります。 なぜならば,元本の確定(被担保債権の特定)がないと根抵当権を債権とともに移転させることができないからです。(398条の7第1項)←現在の倒産件数の多さを考えると,担保のない債権を譲り受けようとするお人よしの会社はない。 しかし,今回の改正前は,根抵当権者から確定させるには,不動産の競売を申し立てたり,確定させるための訴訟を提起するなど,複雑な手続を必要としました。(制度的に,根抵当権者からの確定請求は例外的なものとして扱われていました。このため膨大な時間とテマがかかり,債権処理の減速要因にもなっていました。根抵当権については平成10年に金融機関のために臨時措置法が制定されていましたが,適用範囲が限られているため,抜本的な改革を必要としていたのです。) このため,今回の民法の改正では,根抵当権者からの確定をスムーズにさせるために,
という2つの改正が行われました。 本肢は,このため×です。 |
●根抵当権の確定 |
根抵当権によって優先弁済を受けられる被担保債権が特定されることを元本の確定〔根抵当権の確定〕という。 |
2.「元本の確定期日を定めなかった場合,根抵当権者は,担保すべき元本の確定を請求でき,請求の時より2週間後に担保すべき元本が確定する。」 |
【正解:×】 ◆根抵当権者からの元本確定請求の場合 根抵当権者は,確定期日の合意がないとき,いつでも元本の確定を請求することができ,この場合,根抵当権者が請求した時点で確定します。(398条の19第2項) したがって,「請求の時より2週間後に元本が確定する」という本肢は×です。 ●根抵当権は,確定期日の定めのないとき,一方的な意思表示で確定させることができる。
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3.「不動産質権者は,担保不動産収益執行の開始があった場合でも,質権の目的である不動産の用方に従い,その使用収益をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆担保不動産収益執行が開始されたとき,質権者は使用収益できなくなる 担保不動産収益執行とは,『裁判所が選任した管理人に占有を移してその管理人が抵当不動産を管理し,担保権者等はその収益から被担保債権を回収する』ものです。その開始があったということは,当然,質権者は質権の目的である不動産の使用収益をすることはできなくなります。したがって本肢は×です。 ▼質権者は,質権の目的である不動産の用方に従い,その使用収益をすることができます(356条)が,これには2つの例外があります。『当事者間で別段の定めがあるとき』と『担保不動産収益執行の開始があったとき』(民法改正により追加された)です。(358条) |
4.「指名債権は,その譲渡について債権の証書の交付を要しない場合でも,その債権の証書の交付がなければ,(その指名債権についての)質権設定の効力は発生しない。」 |
【正解:×】 ◆指名債権は,その譲渡に債権証書の交付を要しない場合,債権証書の交付がなくても,質権設定の効力を生じる
改正前,債権に質権を設定する場合は,その債権について証書があれば,その証書を交付することが質権設定の効力発生要件でしたが,この規定が一部の債権を除いてなくなりました。 債権証書といっても何が該当するものなのか不明瞭なものが多く,この規定によりトラブルになるケースが多かったためです。 ただし,手形債権など債権を譲渡するときに証書の交付が必要な債権の場合の債権質は改正前どおり,債権の証書の引渡しによって質権設定の効力が発生します。
⇒ 宅建試験でも敷金返還請求権に質権設定という事例が出題されています。(平成10年問3,平成14年問5,関連・平成13年問9肢2) |
●指名債権 |
証券的な債権〔指図債権・無記名債権〕に対する用語で,証券的な債権以外の一般の債権のことを言います。債権とは原則的に特定人を債権者とするものですが,証券化されず流通されることを予定していない債権のことを『指名債権』と言っています。 |
466条は,原則として債権は譲渡できることを定め,467条,468条が指名債権,つまり,債権者が特定されていて債権の成立・譲渡のために証書の作成・交付を要しない債権の譲渡の「対抗要件」についての規定を置いている。(内田貴・民法III 第2版p.199) |
●敷金返還請求権についての事例問題 |
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賃借人Aは,賃貸人Bに対する敷金返還請求権について,Cを質権者とする質権を設定し,Bに対して内容証明郵便で質権設定の通知をした。しかし,その後,CがBから支払いを受ける前に,Aのほかの債権者Dが敷金返還請求権を差し押さえた。このとき,Aが敷金返還請求権の債権証書をCに交付していなくても,CはBに対して直接取り立てることができる。 |
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【解答 : ○】
Aが敷金返還請求権の債権証書をCに交付していなくても,質権設定の効力が発生します。 指名債権について質権を設定した場合の,第三債務者や第三債務者以外の第三者に対する対抗要件としては,『設定者Aからの第三債務者Bへの確定日付のある証書による通知』,『第三債務者Bの設定者Aまたは質権者Cへの確定日付のある証書による承諾』が必要です。(364条1項,467条)←平成10年問3肢2,平成14年問5肢1出題 本肢の場合,確定日付のある証書(内容証明郵便・公正証書など)で通知しているので,第三債務者や第三債務者以外の第三者に対する対抗要件を満たしており,質権者Cは第三債務者Bに対して弁済を請求することができます。 債権質の場合,質権者Cは,質権の目的である債権を第三債務者Bから直接取り立てることができます。(367条1項)←平成10年問3肢3出題 ▼もし,第三債務者Bが差押債権者Dの請求に応じて弁済したとしても,質権者Cは,第三債務者Bや第三債務者以外の第三者Dに対する対抗要件を満たしているので,第三債務者Bに対して二重に弁済を請求することができます。 ▼もし,敷金返還請求権が第三者に譲渡された場合,質権設定とは対抗関係になりますが,その優劣は,指名債権が二重譲渡された場合と同様に考えます。 ▼敷金といっても,土地の賃貸借契約では,敷金は千万円単位から億単位になることがあります。このため,敷金返還請求権についての債権譲渡や質権設定は実務上知っておく必要があります。 |