Brush Up! 権利の変動篇  過去問のSummary

担保責任 : 担保物権の実行による所有権喪失と出捐−問題を解く視点とKEY


関連 : 第三取得者(抵当権)抵当権消滅請求・代価弁済第三者弁済(弁済)法定代位(H6)

アウトライン−買主の善意・悪意の区別なし

担保物権の実行により所有権を喪失したときの担保責任の考え方

 善意・悪意の買主・解除
              └  損害があれば,損害賠償請求することができる

    買主  解除  損害賠償  除斥期間
 抵当権による所有権の喪失  善意      ない
 悪意      ない

補足・第三取得者の費用償還請求権

 第三取得者は抵当不動産についての必要費〔原則として全額〕有益費〔価格の増加が現存する場合に限り,抵当権者の選択により,費やした金額or増加した価額〕を競売代金から優先的に償還を受けることができます。抵当権者や競落人にとっても利益になったものと認められるからです。(民法391条)

第三取得者・・・ここでは「抵当権が設定されている不動産」を取得した者を指します。
民法の条文では,380条〜381条,391条で用いられています。

担保物権の実行を免れるため出捐したときの担保責任の考え方

 善意・悪意の買主・出捐の償還請求
              └  損害があれば,損害賠償請求することができる

     買主  出捐の償還請求  損害賠償  除斥期間
 抵当権による出捐  善意      ない
 悪意      ない

売主は,どんなときに担保責任を負うか

 買主は善意・悪意どちらでも,以下の場合,担保責任を追及できる

 抵当権や先取特権が設定されているだけでは買主は担保責任を追及できない

抵当権・先取特権によって不動産を失った場合 → 解除権

                         (損害を受けた時は損害賠償請求もできる)

担保物権の実行を免れるために出した場合 → 出捐の償還請求

                         (損害を受けた時は損害賠償請求もできる)

不動産質権が設定されている場合にも適用される。〔通説〕

不動産質権が設定されているときの担保責任

 不動産質権が設定されているだけのとき  用益権の設定など
 不動産質権の実行により所有権を失う  (通説) 担保物権による所有権の喪失・出捐
●盲点
 『抵当権や先取特権による制限があるときは,解除権か損害賠償のどちらかできる』と覚えるのは危険です。

●チェック1
売買の目的物に抵当権が設定されている場合には,善意の買主は直ちに契約を解除できる。(司法試験・択一・昭和48年・問59)
【正解 : ×

 設定されているだけでは解除できません抵当権の実行により所有権を喪失したときに解除することができます。

●チェック2
 売買の目的物に抵当権が設定されている場合に,抵当権が実行されて買主が所有権を失ったときは,買主は善意・悪意にかかわらず契約の解除ができる
【正解 :
●チェック3
 売買の目的物たる不動産の上に抵当権が存在し,その行使によって買主が所有権を失った場合には,そのことにつき悪意の買主は契約を解除することはできないが,被った損害について売主に対して賠償を請求することができる。
【正解 : ×

 ×・・・悪意の買主は契約を解除することはできない。
                       
 ・・・善意・悪意にかかわらず,買主は契約を解除できる

 抵当権の実行により所有権の喪失,免れるための出捐,どちらの場合でも,損害を受けたときは,善意・悪意にかかわらず,買主は損害賠償請求できる。

出損

    買主  出捐の償還請求  損害賠償  除斥期間
 抵当権による出捐  善意      ない
 悪意      ない

●関連知識 買主〔第三取得者〕が抵当権を消滅させるための制度 

関連 必ず見ておきましょう : 第三取得者(抵当権)抵当権消滅請求・代価弁済第三者弁済(弁済)

 第三者弁済 (474条)  買主が被担保債権を債務者に代わって弁済する。
 債務額全額を弁済することになるので,

 被担保債権時価のときは買主に有利。

 時価被担保債権のときは買主に不利。

 被担保債権を消滅させることによって連動して抵当権が消滅。

 代価弁済 (378条)  買主が,抵当権者の請求に応じてその代価を弁済。
 代価〔通常は時価〕を決めるのは抵当権者
 主導権は抵当権者がもち,代価弁済には抵当権者との合意が
 必要になる。

 抵当権は消滅するが,債権額と代価の差額は一般債権として
 残り,被担保債権の債務者に支払義務がある。

抵当権消滅請求

 (379条)

 第三取得者が

 目的物の価額に相当する金銭を提供して抵当権を消滅。
 主導権は買主(第三取得者)がもつ。

 抵当権者がその価額に不満の場合は,抵当権者は
 第三取得者から抵当権消滅請求の送達を受けた後
 2ヵ月以内に競売の申立てをすることになる。

 抵当権は消滅するが,債権額と滌除金額との差額は
 一般債権として残り,被担保債権の債務者に支払義務がある。

抵当権消滅請求の手続をするには
 所有権移転登記が必要と解されている。

    買主が支払う金額 イニシアティブ  買主が有利なとき
 第三者弁済 (474条)  被担保債務全額  −  被担保債権<時価
 代価弁済 (378条)  抵当権者の請求額  抵当権者  時価<被担保債権
 抵当権消滅請求(379条)  買主が相当とする価額  買主  時価<被担保債権

担保物権の登記があるときの代金支払拒絶権

買受けた不動産に先取特権,質権,または抵当権の登記があるときは買主(第三取得者)は抵当権消滅請求の手続きが終わるまでその代金の支払を拒むことができる。但し,売主は買主に対して遅滞なく抵当権消滅請求を為すべき旨を請求することができる。(577条)

 売主は,買主に対して代金の供託を請求することができる。(578条)

買主が抵当権が設定されていることをあらかじめ知っているだけでなく(悪意)、売買代金を
決めるのに被担保債権の額を控除して定めた場合に
は、この適用はありません。

■買主 登記があるときは買主は抵当権消滅請求の手続きが終わるまで
     その代金の支払を拒むことができる。

     → これにより,買主は,捐した金額を差し引いて代金を支払うことができる。

■売主 買主に対して遅滞なく抵当権消滅請求を為すべき旨を請求することができる。
      買主に対して代金の供託を請求することができる。

◆代金支払拒絶権が認められないとき

 以下の場合は代金支払拒絶権が認められません。

・売主から「遅滞なく抵当権消滅請求をせよ」と請求されたにもかかわらず,抵当権消滅請求しなかったとき

・売主から「供託せよ」と請求されたにもかかわらず,供託しなかったとき

・売主と買主の間で,予め担保物権が設定されていることを考慮しその分を差し引いて代金を決めていたとき

<関連図>

 先取特権,質権,または抵当権の登記があるとき → 代金支払拒絶権

 先取特権,または抵当権の実行を免れるため捐 → 担保責任

 先取特権,または抵当権の実行により所有権喪失 → 担保責任

●チェック
は,その所有する不動産につき,債権者との間で抵当権設定契約を締結したが,その登記をしないうちに,この不動産をに売却して所有権移転の登記をした。は,の抵当権が存在することを理由に,に対して売買代金の全部または一部の支払を拒むことができる。(司法書士・平成4年・問13)
【正解 : ×

     債権者・・・抵当権の設定契約を締結したがその登記はしていない
   /
 
   \
     譲受人 ・・・は代金の支払を拒絶できるか?

 確かに,登記されている抵当権があるときは,買主は,抵当権消滅請求をすることで抵当権の実行を免れることができるため,抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金の全部または一部の支払いを拒絶できますが,本肢では抵当権に登記がないので対抗力がなく,抵当権消滅請求をする必要はありません。したがって,この場合には代金支払いを拒絶することはできません。


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