Brush Up! 権利の変動篇  過去問のSummary

担保責任のイントロダクション : 全体像と記憶の節約−問題を解く視点とKEY


 担保責任の問題を解くポイントを整理してみましょう。ルーペで強拡大して精査し,苦手意識を除去しましょう。

 全体をまとめて覚えようとすることによって,かえって見失われ混乱するものがあります。

 各担保責任をひとつひとつ丁寧に見ていくことが必要です。

担保責任の位置付け

             全部滅失 → 原始的不能により契約は無効
           /
 原始的な滅失
           \
             一部滅失 → 担保責任 565条

 原始的な瑕疵 → 担保責任

 原始的とは,『契約締結前』にあったという意味です。

まず,担保責任の意味

 売買において売主は,目的物である財産権〔所有権等〕を十全な状態で買主に移転することを,いわば保証〔担保〕していると見ることができる。…この,目的物の十全さを担保する売主の責任という意味で,担保責任という表現が使われているのである。(内田貴・民法2)

 担保責任は,売買契約によって,売主が,ある物の権利移転につき保証をしたにもかかわらず,後になって権利の移転ないし物の性質に問題があることが判明した場合の責任である。(大村敦志・基本民法2)

→ 担保責任には,買主と売主の利益の調整の機能があるとも言われています。

無過失責任であること〔無過失責任〕 判例・通説

→ 売主が無過失でも責任を問われることに注意。出題・昭和45年平成11年平成14年

除斥期間−

全部他人物と担保物権による喪失・出損には,除斥期間はない。

一部他人物の悪意の場合が『契約時から1年以内』を除き,後は『知ってから1年

 全部他人物

 担保物権による喪失

 除斥期間はない。
 一部他人物の悪意の場合  契約時から1年以内
 一部他人物(善意)・数量不足(善意)・隠れた瑕疵(善意)  知ってから1年以内

除斥期間と消滅時効についての重要判例

●裁判外の行使でもよい。―最高裁・平成4.10.20
 民法570条,566条3項により,買主が瑕疵又は数量不足を発見した時から1年の経過により消滅するこの1年の期間制限は,除斥期間を規定したものと解すべきである。

 この損害賠償請求権を保存するには,売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り,裁判上の権利行使をするまでの必要はないと解するのが相当である。〔損害賠償請求権を保存するには,裁判上の権利行使までは必要ないが,少なくとも,売主に対し,具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すなどして,売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要があるとしている。〕

一年以内=担保責任を問う意思表示,裁判外でもよい。

●損害賠償請求権は,引渡しから10年の消滅時効にかかる―最高裁・平成13.11.27
 瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定(167条1項)の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する

 したがって,買主が引渡しより10年以上経過してから瑕疵に気付いても,損害賠償請求はできない。

同時履行の抗弁権 民法571条

 売主に担保責任が生じて,買主が契約の全部または一部を解除した場合,
買主は代金の全部または一部の返還を請求できますが,
売主から受け取ったものがあれば返還しなければいけません。

民法では,このときに,533条の同時履行の抗弁権を準用しています。

〔全部他人物売買,担保物権による所有権の喪失の場合では,返還するものがないので準用されません。〕

任意規定であること 民法572条

 民法上は,当事者の合意によって,担保責任を免除する,または,加重する(判例)こともできます。(572条)

 ただし,売主が知りながら買主に告げなかった事実及び売主が自ら第三者のために設定しまたは第三者に譲渡した権利については,売主は担保責任を免れることはできない。(民法572条但書)

 実務上は,このほかに特別法による制限があります。〔宅建業法・住宅品質確保法など〕

〔判例〕 担保責任の規定は強行規定ではないので,当事者の合意により,
      担保責任を加重することもできる(最高裁・昭和45.4.10)
●参考問題
売主が担保責任を負わない旨の特約は有効であるが,売主が知りながら買主に告げなかった事実及び売主が自ら第三者のために設定しまたは第三者に譲渡した権利については,売主は担保責任を免れることはできない。
【正解:

■担保責任免除の特約があっても売主が責任を負う場合の出題

 昭和45年昭和60年昭和62年昭和63年

●●善意の買主→ これだけで記憶の節約ができる。

 善意の買主は,解除・損害賠償請求・代金減額請求は要件を満たせば,

どのタイプでもできる。

●●善意・悪意で分けるのは「単一の乾電池」

 善意・悪意で分ける → 部他人物,保物権による所有権喪失・出捐,部他人物

 善意のみしか規定がない → 数量不足・一部滅失,用益権の付着,隠れた瑕疵

 → これだけで記憶の節約ができる。

●●代金減額請求ができるもの−目的物の一部が取得できない,数量不足の2つ

 一部他人の権利  善意    知ったときから1年
 悪意    契約の時から1年
 数量不足・一部滅失  善意    知ったときから1年
 悪意  ×  ―

●●悪意の買主でもできるもの → これだけで記憶の節約ができる。

      代金減額請求  解除  損害賠償請求
 全部他人物  ―    ×
 一部他人物    ×  ×
 数量不足一部滅失  ×  ×  ×
 用益権の設定  ―  ×  ×
 担保物権による喪失・出捐  ―  
 喪失
 
 喪失・出捐
 隠れた瑕疵  ―  ×  ×

四つだけ覚えればいい。

悪意の買主でも,代金減額請求ができるのは,一部他人物の1つだけ。

悪意の買主でも,損害賠償請求ができるのは担保物権による喪失・出捐の1つだけ。

悪意の買主でも,解除ができるのは,全部他人物と担保物権による喪失の2つだけ。

(念のため) 悪意の買主でも,担保物権による出捐では,償還請求できる。

売主は,どんなときに担保責任を負うか

何がベースになるか押さえておかないと,マル暗記の丸腰戦法で試験を受けることになる。

 解除がベース  全部他人物

 担保物権による所有権の喪失

 損害賠償がベース  用益権の設定

 隠れた瑕疵

 代金減額請求がベース  一部他人物

 数量不足一部滅失

 償還請求がベース  担保物権による出捐

−↓この表はマル暗記しないでください

 全部他人物  売主は,他人から取得して買主に移転する義務(560)があり,
 売主が買主に移転できないとき。(561)

 (いったん買主に移転登記しても,権利を主張する者が出現
 して,最終的に所有権を取得できなかった場合も含む。)

 解除

 善意ならば,損害賠償請求もできる。

 一部他人物

 悪意の買主は

 代金減額請求のみ

 売買の目的物の一部が他人の所有であり,その部分の所有
 権を買主に移転できなかったとき。(563)

 ベースとなるのは代金減額

 解除しないならば,代金減額(善意・悪意) 

 残った部分では買わないとき解除(善意)

 損害賠償請求は善意なら,代金減額・解除と併せてできる。

 数量不足一部滅失

 善意の買主

 売主が一定の数量があることを保証しそれを基礎に代金を
 算出したが,実際は不足していた。(565)

 ベースとなるのは代金減額

 解除しないならば,代金減額(善意) 

 残った部分では買わないとき解除(善意)

 損害賠償請求は善意なら,代金減額・解除と併せてできる。

 用益権の設定

 善意の買主

 売買の目的物に,地上権・永小作権・地役権・留置権・質権
 が設定されている。(使用収益が制限されている)

 対抗力のある賃貸借〔借地借家法10-1,31-1,農地法18-1等〕
 があったとき。(566条2項)
 → 対抗力があれば登記のないものでも買主は追及できる。

 目的不動産のためにあるはずの地役権がないとき。(566条2項)

 ベースとなるのは損害賠償

 解除しないならば,損害賠償請求

 契約をした目的が達成できないとき → 解除

(566)
 → 目的物全体ではなく一部に制限物権がある場合も含む。
 担保物権による

 所有権の喪失・

 出捐

 売買の目的の不動産に,先取特権・抵当権があり,その行使
 によって買主が所有権を失ったとき。(567条1項)
 → 不動産質権の実行によって所有権を失った場合も含む。

 解除

 損害を受けたときは損害賠償請求

 第三取得者にあたる買主が出捐によって所有権を保存した
 とき〔抵当権消滅請求,第三者弁済〕は,その償還を請求でき
 る。(567条2項)

 出捐の償還請求

 損害を受けたときは損害賠償請求

 隠れた瑕疵

 善意の買主

 売買の目的物に隠れた瑕疵があるとき。(570)

 ベースとなるのは,損害賠償請求

 解除しないならば,損害賠償請求

 契約をした目的が達成できないとき → 解除

どんなときに解除できるか−この表はマル暗記しないでください

 契約の目的を達成することができない−用益権による制限 ・ 隠れた瑕疵

 残った部分では買い受けることができない−一部他人物 ・ 数量不足一部滅失

 権利が取得できないor喪失−全部他人物 ・ 担保物権による喪失〔善意・悪意どちらもできる〕

 全部他人物  買主=善意・悪意どちらも解除できる

 権利が取得できないとき

 一部他人物  買主=善意 

 残った部分では買い受けることができないとき

 数量不足一部滅失  買主=善意 

 残った部分では買い受けることができないとき

 用益権の設定  買主=善意 

 契約の目的を達成することができないとき

 担保物権による

 所有権の喪失

 買主=善意・悪意どちらも解除できる

 権利を喪失したとき

 隠れた瑕疵  買主=善意無過失

 契約の目的を達成することができないとき

 一部解除 以下の場合は,目的物の全体ではなく一部を解除することも可能

・目的物の一部に権利〔所有権・用益物権など〕を主張する者がいる場合

・目的物の一部に瑕疵がある場合

損害賠償請求はどんなときにできるか−この表はマル暗記しないでください

 全部他人物

 買主=善意

 解除して損害賠償請求可能。

 解除(+損害賠償請求)

 一部他人物

 買主=善意

 代金減額or解除のどちらも損害賠償請求可能。

 代金減額(+損害賠償請求),解除(+損害賠償請求)

 数量不足一部滅失

 買主=善意

 代金減額or解除のどちらも損害賠償請求可能。

 代金減額(+損害賠償請求),解除(+損害賠償請求)

 用益権の設定

 買主=善意

 解除しないときは,損害賠償請求しかできない。

 損害賠償,解除(+損害賠償),

 担保物権による

 所有権喪失

 損害を受けたときは,解除して損害賠償請求可能。 

 解除(+損害賠償請求),

 担保物権による

 出捐

 損害を受けたときは,償還請求とあわせて損害賠償請求可能。

 償還請求(+損害賠償請求),

 隠れた瑕疵

 買主=善意無過失

 解除しないときは,損害賠償請求しかできない。

 損害賠償請求,解除(+損害賠償),


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