Brush Up! 権利の変動篇
意思表示の過去問アーカイブス 詐欺 (平成14年・問1) 第三者の詐欺
AがBの欺罔行為によって,A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成14年・問1) |
1.「Aは,Bが欺罔行為をしたことを,Cが知っているときでないと,売買契約の取消しをすることができない。」 |
2.「AがCに所有権移転登記を済ませ,CがAに代金を完済した後,詐欺による有効な取消しがなされたときには,登記の抹消と代金の返還は同時履行の関係になる。」 |
3.「Aは,詐欺に気が付いていたが,契約に基づき,異議を留めることなく所有権移転登記手続をし,代金を請求していた場合,詐欺による取消しをすることはできない。」 |
4.「Cが当該建物を,詐欺について善意のDに転売して所有権移転登記を済ませても,Aは詐欺による取り消しをして,Dから建物の返還を求めることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
■第三者の詐欺は,初出ではなく,昭和53年,平成4年・問8・肢4(取消の問題),平成4年・問2(代理の問題),平成10年・問7・肢1で既出。
■欺罔行為・・・表意者をダマす行為。詐欺とは,『人を欺き,錯誤に陥らせること』をいうが,すべての欺罔行為が詐欺になるわけではなく,社会通念上許される限度を超えた『違法な欺罔行為』をしたことが詐欺。 |
1.「Aは,Bが欺罔行為をしたことを,Cが知っているときでないと,売買契約の取消しをすることができない。」 |
【正解:○】 ◆第三者の詐欺 : 相手方が悪意のときに限り,取り消すことができる ┌Bの詐欺 ふつうの詐欺、つまり、意思表示の相手方が詐欺を行った場合は、常に取り消すことができますが、第三者が詐欺を行った場合には事情が変わります。
相手方が善意・・・取り消しできない 相手方が悪意・・・取り消すことができる もし相手方Cが、第三者のBが詐欺を行ったことを知らないのに、Aが自由に取り消すことができるとすれば、相手方のBには著しい不利益となるため、Aの取消には制限がかかっています。〔善意の相手方の保護〕 ただ、相手方が善意のときに取消はできないにしても、詐欺を働いた第三者に対して不法行為による責任追及をすることは可能だと考えられています。(最高裁・昭和38.8.8) |
2.「AがCに所有権移転登記を済ませ,CがAに代金を完済した後,詐欺による有効な取消しがなされたときには,登記の抹消と代金の返還は同時履行の関係になる。」 |
【正解:○】 ◆同時履行の抗弁権 ┌Bの詐欺 取消の意思表示がされると、いったん有効に成立した契約は契約締結時点に遡って初めから無効であったものとして扱われ、当事者双方には、履行されたものがあれば、その返還義務が生じます。(121条) 判例によれば、第三者の詐欺を理由に取り消された場合、当事者双方の返還義務は同時履行の関係にあるとされています。(533条の類推適用、最高裁・昭和47.9.7)
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●ソックリの過去問 |
4.「当該契約の締結は,第三者の詐欺によるものであったとして,買主が契約を取消した場合,買主は,まず登記の抹消手続きを終えなければ,代金返還を請求することができない。」(平成4年・問8・肢4) |
【正解:×】 |
3.「Aは,詐欺に気が付いていたが,契約に基づき,異議を留めることなく所有権移転登記手続をし,代金を請求していた場合,詐欺による取消しをすることはできない。」 |
【正解:○】 ◆法定追認 ┌Bの詐欺 詐欺・強迫により意思表示した者は、取消の原因たる情況を脱した後(詐欺にあったことを知った後、強迫された状態を脱した後)、その法律行為が有効であると認めることができます。〔追認、124条1項〕 追認すると、取り消されるかどうか不安定だった法律行為が、確定的に有効なものになります。(122条) → 取消権の放棄 この追認はその旨を相手方にはっきり言明するだけでなく、追認したのと同じだと思われるような行動をした場合にも適用されます。〔法定追認〕(125条) 詐欺に気が付いているのに、『異議を留めることなく所有権移転登記手続をし,代金を請求していた』のでは、125条1項の『全部または一部の履行』にあたり、法定追認になります。 従って、Aは,もはや詐欺による取消しをすることはできません。 |
4.「Cが当該建物を,詐欺について善意のDに転売して所有権移転登記を済ませても,Aは詐欺による取り消しをして,Dから建物の返還を求めることができる。」 |
【正解:×】 ◆取消前の善意の第三者には対抗できない ┌Bの詐欺 AがCに売却し,登記 CがDに転売・登記 Aが詐欺を理由に取消 ―●――――――――――――●――――――――●―――――――― 第三者の詐欺でも、『取消前の善意の第三者には対抗できない』のは同じです。(96条3項) したがって、Aは相手方Cが第三者Bの詐欺について悪意ならば詐欺による取り消しをすることはできますが,Dから建物の返還を求めることはできません。 |