宅建過去問 権利の変動篇
制限行為能力者の過去問アーカイブス 平成22年・問1
制限行為能力者に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成22年・問1) |
1 土地を売却すると、土地の管理義務を免れることになるので、婚姻していない未成年者が土地を売却するに当たっては、その法定代理人の同意は必要ない。 |
2 成年後見人が、成年被後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物を売却するためには 家庭裁判所の許可が必要である。 |
3 被保佐人については、不動産を売却する場合だけではなく、日用品を購入する場合も、保佐人の同意が必要である。 |
4 被補助人が法律行為を行うためには、常に補助人の同意が必要である。 |
<コメント> |
肢1,肢3には関連出題がありますが,肢2,肢4は初出題です。特に肢2については市販の各基本書(予備校のテキストにもほとんど記載なし)とも掲載していないため,大半の受験者は知らなかったと思われます。試験開始後ヨーイドンで,イキナリ「生まれて初めて見た問題」になりました。
例年問1は受験者のペースを狂わせるために戸惑わせる問題になっていることが多く,22年もそうなりました。 |
●出題論点● |
(肢1) 未成年者の法律行為
(肢2) 成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可 (肢3) 保佐人の同意を要する行為 (肢4) 補助人の同意を要する行為 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
正答率 | 81.0% |
1 土地を売却すると、土地の管理義務を免れることになるので、婚姻していない未成年者が土地を売却するに当たっては、その法定代理人の同意は必要ない。 |
【正解:×】(関連出題)15-1-2,17-1-4,20-1-2, 未成年者が法律行為をするには,原則として,その法定代理人の同意を得なければなりません(民法5条1項)。 ただし,例外として,以下については,法定代理人の同意は不要です。 (1) 未成年者が婚姻しているか(民法753条),婚姻したことがある(離婚または死別)(通説), (2) 未成年者が一種または数種の営業の許可を受けている (許可を得た営業に関する法律行為については法定代理人の同意は不要)(民法6条1項) 本肢では,未成年者は婚姻していないので,土地を売却するには法定代理人の同意が必要です。※ ※営業の許可については,問題文に書かれていないので,本肢では考える必要はありません。 |
2 成年後見人が、成年被後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物を売却するためには 家庭裁判所の許可が必要である。 |
【正解:○】民法の平成12年改正施行後,初出題 成年後見人は法定代理人であり,本人の財産の管理・処分・運用などについて権限を有しています(民法859条1項)。しかし,居住用不動産の処分については,家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。許可のない処分は無効だと解されています(通説)。 この規定は,後見人が被後見人の財産を勝手に売却して住むところがなくなったり,それまで住み慣れた住居から移ることで精神的に不安定となり悪化をもたらすことがあるなどを制度として防ぐために,平成12年改正で創設されました。
▼居住用不動産の処分についての許可の規定は,審判により代理権を付与された保佐人(民法876条の5第2項),審判により代理権を付与された補助人(民法876条の10第1項)にも準用されます。 |
3 被保佐人については、不動産を売却する場合だけではなく、日用品を購入する場合も、保佐人の同意が必要である。 |
【正解:×】(関連出題) 〔成年被後見人〕20-1-2, 日用品を購入する場合,保佐人の同意は必要ではありません。 保佐人の同意を得なければならないのは,不動産を売却するなどの民法13条1項に掲げられている法律行為及び審判で定められた法律行為であり,民法13条1項・2項の但書では,日用品の購入その他日常生活に関する行為については被保佐人の同意は不要としています(民法13条1項,2項)。
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●保佐人の同意が必要な法律行為 (民法13条1項) |
一 元本を領収し、又は利用すること。 二 借財又は保証をすること。 三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。 四 訴訟行為をすること。 五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法に規定する仲裁合意)をすること。 六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。 七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。 八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。 九 民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること。 |
4 被補助人が法律行為を行うためには、常に補助人の同意が必要である。 |
【正解:×】初出題,補助開始の審判について平成20年問1肢3で出題。 補助人の同意を要する旨の審判を受けた被補助人の場合,補助人の同意を必要とする法律行為は,民法13条1項の範囲内で※家庭裁判所の審判で個別に定められたものに限られます。 ※民法13条1項の全部が審判で,補助人の同意を必要とされることはない。その全部について保護者の同意を必要とするならば,補助開始ではなく保佐開始の申立てをするべきだからである。 つまり,民法13条1項にある法律行為でも,家庭裁判所の審判で補助人の同意を必要とされていないものについては,補助人の同意は当然,不要です。 また,補助人に代理権のみが付与されている場合,その被補助人は制限行為能力者ではないので,法律行為をするのに補助人の同意は不要です(ただし,本問では,「制限行為能力者に関する次の記述〜」となっています。このため,肢4は被補助人が制限行為能力者の場合であるとも読めるので,厳密には考える必要はありません)。 したがって,「常に補助人の同意が必要」とする本肢は誤りです。 ▼補助人は,同意権か代理権の一方,または双方を有しています。 |
●制限行為能力者 |
民法では,制限行為能力者とは,未成年者,成年被後見人,被保佐人,及び,補助人の同意を要する旨の審判を受けた被補助人のことをいいます(民法20条1項)。
このため,被補助人であっても,その補助人に代理権のみが付与され,補助人が同意権(及び取消権)を有していない場合は,制限行為能力者ではありません(この場合,被補助人の法律行為に補助人の同意は不要)。 これについて他の資格試験では出題されていますが,宅建試験では未出題です。このため,宅建の基本書では掲載していないものが多いので,注意が必要です。⇒ 20-1-3〔参考問題〕, |