Brush Up! 権利の変動篇

借地借家法の過去問アーカイブス 平成4年・問11

借家権 賃料受取拒否・賃貸人の家賃の増額請求・賃貸人の更新拒絶の通知・
転借人への原賃貸契約終了の通知


建物の賃貸借に関する次のそれぞれの記述は、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば○か、×か。(平成4年・問11)

1.「賃借人が家賃を支払おうとしても、賃貸人がこれを受領せず、以後の家賃の受領を明確に拒んだ場合においても、賃借人は、家賃を供託しないと、履行遅滞になる。」

2.「賃貸借契約の更新の際、家賃の増額について賃貸人の請求があったときは、賃借人は、これを拒むことはできない。」

3.「期間の定めがある賃貸借契約の期間が満了した場合において、賃貸人が自ら使用することを必要とする等正当の事由があるときは、賃貸人は、あらかじめ更新拒絶の通知をしなくても、賃貸借契約の更新を拒むことができる。」

4.「賃貸人の承諾を得て、賃借人から建物を転貸している場合、賃貸借契約が合意解除されても、転借人の権利は、特段の事由がある場合を除き、消滅しない。」

【正解】

× × ×

1.「賃借人が家賃を支払おうとしても、賃貸人がこれを受領せず、以後の家賃の受領を

明確に拒んだ場合においても、賃借人は、家賃を供託しないと、履行遅滞になる。」

【正解:×賃料受取拒否

 債務者(賃借人)は、「弁済の提供=債務の弁済するための手段をとる)」をすれば、債権者が受領を拒否しても、以降は債務不履行の責任を負うことはありません(民法第493条)。

 また、債権者が受領を明確に拒んだとしても、「弁済の通知をして受領の催告」をすれば、責任を問われず(民法第493条)、したがって、この場合の賃借人は、供託(民法第494条)する必要はありません。

2.「賃貸借契約の更新の際、家賃の増額について賃貸人の請求があったときは、賃借人

は、これを拒むことはできない。」

【正解:×賃貸人の家賃の増額請求

 賃借人と賃貸人は対等な関係であり、賃借人は、賃貸人から賃貸料の増額の請求があったとき、その額に不服があれば拒むこともでき、裁判所による適正な借賃の決定がされるまで、自ら相当と認める額を支払うことで足ります(借地借家法第32条2項)。

 しかし、裁判によって確定した額より実際に支払った額が不足したとき、その差額に「年1割の利息」を付けて支払う義務が生じます(〃項 後段)。

<関連>

賃料の“減額”を請求された賃貸人は、減額を認める裁判が確定するまでは、自分が相当と考える貸賃を請求することができます。

 裁判で減額が確定したときには、賃貸人は、余分に受け取った分に「年1割の利息」をプラスして返還しなければなりません。

3.「期間の定めがある賃貸借契約の期間が満了した場合において、賃貸人が自ら使用す

ることを必要とする等正当の事由があるときは、賃貸人は、あらかじめ更新拒絶の通知

しなくても、賃貸借契約の更新を拒むことができる。」

【正解:×賃貸人の更新拒絶の通知

 建物の賃貸借について“期間の定めがある”とき、賃貸人に正当な事由があっても、賃貸人は、期間満了の「6ヵ月前から1年前までの間」に更新拒絶等の通知をしていなければ、従前の契約と同一の条件期間だけは、定めないものとされる)で契約したものとみなされます(借地借家法第27条1項)。

<参考>

◆期間に定めのない契約

[1]建物の“賃貸人”が解約の申入れをした場合、契約は申入れの日から「6月経過後」に終了する

[2]“賃借人”から申入れた場合は、契約は申入れの日から「3月経過後」に終了する

4.「賃貸人の承諾を得て、賃借人から建物を転貸している場合、賃貸借契約が合意解除

されても、転借人の権利は、特段の事由がある場合を除き、消滅しない。」

【正解:転借人への原賃貸契約終了の通知→平成6年・問12

 要注意!

 賃借人が適法に賃借物を転貸しているとき(民法第613条)、基本契約である建物の賃貸借契約が“合意解除”されたり,賃借人により放棄されても建物の賃貸人は、原則として,その終了をもって建物の転借人に対抗することができません。(最高裁・昭和38.4.12)

賃借人が適法に賃借物を転貸しているとき(民法第613条)、基本契約である建物の賃貸借契約が“期間の満了や解約の申し入れ”により終了しても建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨を通知しなければその終了をもって建物の転借人に対抗することができず、通知したときであっても、6ヶ月間は終了しません(借地借家法第34条1項2項)。

→逆に言えば、「転借人は賃貸人からの通知の日から6ヵ月を経過したら転借権を失う(転貸借が終了する)」ということです。

賃借人〔転貸人〕の債務不履行による解除によって原賃貸借契約が終了したときは,転貸借は,賃貸人が転借人に目的物の返還を請求したときに,転貸人の転借人への履行不能により終了する。(最高裁・平成9.2.25)

原賃貸借の終了と転貸借の出題歴〔建物の転貸借〕

  原賃貸借が期間満了or解約申入れにより終了平成元年・問6平成6年・問12
                                        平成10年・問12平成12年・問12平成16年問13

  原賃貸借が合意解除・→平成4年・問11,平成6年・問12平成10年・問6平成16年・問13 

  原賃貸借が債務不履行による解除→平成10年・問6平成16年・問13

  転借人の使用継続による原賃貸借の法定更新
   ・原賃貸借の解約の申入れ+転借人の使用継続 平成6年・問12
   ・原賃貸借の期間満了+転借人の使用継続 平成10年・問12

    転貸借の終了時点
 原賃貸借の合意解除  賃貸人は,転借人に対抗できない。
 当然には終了しない。
 原賃貸借が期間満了or
 解約申入れにより終了〔建物〕
 賃貸人からの通知の日から6ヵ月を経過したとき
 原賃貸借の債務不履行による解除  賃貸人が転借人に目的物の返還を請求したとき

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