Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借・借地借家法の過去問アーカイブス 平成元年・問6
修繕義務・必要費・賃貸借の終了と転貸・転借人の義務
Aは,自己所有の建物をBに賃貸した。この場合,民法及び借地借家法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものを選べ。(平成元年・問6) |
1.「建物が老朽化してきたため,Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合,Bは,Aの修繕行為を拒むことはできない。」 |
2.「建物が老朽化してきたため,BがAの負担すべき必要費を支出して建物の修繕をした場合,Bは,Aに対して,直ちに修繕に要した費用全額の償還を請求することができる。」 |
3.「BがAの承諾を得て第三者Cに建物を転貸した場合,AB間の賃貸借契約が期間の満了により終了すれば,当然にBC間の転貸借契約も終了する。」 |
4.「BがAの承諾を得て第三者Dに建物を転貸した場合,Aは,Dに対して直接賃料を請求することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
1.「建物が老朽化してきたため,Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合,Bは,Aの修繕行為を拒むことはできない。」 |
【正解:○】 ◆賃借人 : 修繕での受忍義務 賃貸人には,建物を修繕する義務と権利があり(606条1項),賃貸人が建物の保存のために必要な修繕をしようとするときには,賃借人Bはこれを拒むことはできません。(606条2項) その代わり,民法は受忍義務を負う賃借人の不利益を考慮して,賃借人には,賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとして,これにより賃借した目的が達成できない場合には,賃借人に解除権を与えて,当事者のバランスを保っています。(607条) |
2.「建物が老朽化してきたため,BがAの負担すべき必要費を支出して建物の修繕をした場合,Bは,Aに対して,直ちに修繕に要した費用全額の償還を請求することができる。」 |
【正解:○】 ◆必要費の償還 賃借人が賃貸人の負担すべき必要費を支出したときは直ちに賃貸人Aに対して償還を請求することができます。(民法608条1項) 賃貸借契約の終了後に償還請求するのは『有益費』です。
▼費用償還請求権の除斥期間〔必要費・有益費〕 賃借人が必要費を支出して直ちに償還請求をせずに賃貸借契約が終了したときはどうなるか? 賃借人の賃貸人に対する費用償還請求権〔必要費・有益費〕は,賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年以内に請求しなければいけません。この間に行使しないと費用償還請求権は消滅します。(民法622条、600条) この行使は裁判外であってもよく,目的物の返還後一年以内にこの行使があれば,賃借人の費用償還請求権は保存され,以後10年間存続します。(大審院・昭和8.2.8) ※必要費の場合は,支出後直ちに償還請求することができるため,返還後の1年以内という除斥期間とは別に,支出の時点から消滅時効〔10年〕が進行することに注意してください。つまり,目的物の返還から1年を経過していなくても,支出時点から10年が経過していれば消滅時効が成立して必要費の償還請求ができなくなります。 |
3.「BがAの承諾を得て第三者Cに建物を転貸した場合,AB間の賃貸借契約が期間の満了により終了すれば,当然にBC間の転貸借契約も終了する。」 |
【正解:×】 ◆原賃貸借〔基本賃貸借〕の終了と転貸借 A(賃貸人) 民法だけで考えると本肢のようになりますが,ここは借地借家法で建物の賃貸借では修正されていることをきちんと押さえておかなければいけません。 借地借家法34条では,建物の転借人の保護のため,民法を以下のように修正しています。 賃貸人の承諾を得て転貸借がされている場合に,期間の定めのある賃貸借が期間の満了〔期間の定めのない賃貸借では解約の申入れ〕によって終了するときは,賃貸人Aは転借人Cにその旨の通知をしないと,賃貸借の終了を転借人に対抗できません。(借地借家法34条1項) 賃貸人Aが転借人Cに,賃貸借が終了する旨を通知したときは,その通知がされた日から6月を経過することによって転貸借も終了します。(借地借家法34条2項) |
●原賃貸借の終了と転貸借の出題歴〔建物の転貸借〕 |
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原賃貸借が期間満了or解約申入れにより終了→平成元年・問6,平成6年・問12 原賃貸借が合意解除・→平成4年・問11,平成6年・問12,平成10年・問6,平成16年・問13, 原賃貸借が債務不履行による解除→平成10年・問6,平成16年・問13 転借人の使用継続による原賃貸借の法定更新
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4.「BがAの承諾を得て第三者Dに建物を転貸した場合,Aは,Dに対して直接賃料を請求することができる。」 |
【正解:○】 ◆転借人の義務 A(賃貸人) 賃貸人の承諾を得て転貸借がなされたとき,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負います。転借人は,賃借人が払うべき賃料等の支払や明渡し義務,目的物保管義務などを負うことになります。(613条1項) この結果,賃貸人は,賃借人・転借人どちらにも賃料を請求することができます。 →転借人は賃借人の負担する以上の義務を負わない。転借人は転貸借契約で定められた賃料の額の範囲で賃借人の支払義務を負うだけで,次のようになります。(不等式にすると、金額の低いほうを賃貸人に支払えばよい。)→出題・昭和62・問7・肢4 賃貸借の賃料 > 転貸借の賃料 ・・・ 転貸借の賃料 |