Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借・借地借家法の過去問アーカイブス 平成16年・問13 転貸借
転借人の賃料支払義務・転借人の保護
AはBに対し甲建物を月20万円で賃貸し,Bは,Aの承諾を得た上で,甲建物の一部をCに対し月10万円で転貸している。この場合,民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば,誤っているものはどれか。(平成16年・問13) |
1.「転借人Cは,賃貸人Aに対しても,月10万円の範囲で,賃料支払義務を直接に負担する。」 |
2.「賃貸人Aは,AB間の賃貸者契約が期間の満了によって終了するときは,転借人Cに対しその旨の通知をしなければ,賃貸借契約の終了をCに対し対抗することができない。」 |
3.「AB間で賃貸借契約を合意解除しても,転借人Cに不信な行為があるなどの特段の事情がない限り,賃貸人Aは,転借人Cに対し明渡しを請求することはできない。」 |
4.「賃貸人AがAB間の賃貸借契約を賃料不払いを理由に解除する場合は,転借人Cに通知等をして賃料をBに代わって支払う機会を与えなければならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
●原賃貸借の終了と転貸借−転借人の保護 |
これまでの出題項目の確認問題ともいえる出題です。肢1の「転借人の直接義務」,肢2〜肢4の「原賃貸借の終了と転借人」は基本書でも,まとめられています。肢2〜肢4は初めて出題されたときには難問であっても,現在は基本問題です。 本問題は,<過去問を学習するときに,類似の出題について,コマメに調べておくこと> の大切さを認識させる良問でした。 |
1.「転借人Cは,賃貸人Aに対しても,月10万円の範囲で,賃料支払義務を直接に負担する。」 |
【正解:○】昭和62年・問7,平成元年・問6,平成10年・問6 ◆転借人の義務 A(賃貸人)
賃貸人の承諾を得て転貸借がなされたとき,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負います。転借人は,賃借人が払うべき賃料等の支払や明渡し義務,目的物保管義務などを負うことになります。(民法613条1項) この結果,賃貸人は,賃借人・転借人どちらにも賃料を請求することができます。 →転借人は賃借人の負担する以上の義務を負わない。転借人は転貸借契約で定められた賃料の額の範囲で賃借人の支払義務を負うだけで,次のようになります。(不等式にすると、金額の低いほうを賃貸人に支払えばよい。)→出題・昭和62・問7・肢4 賃貸借の賃料 > 転貸借の賃料 のとき・・・ 転貸借の賃料 |
2.「賃貸人Aは,AB間の賃貸者契約が期間の満了によって終了するときは,転借人Cに対しその旨の通知をしなければ,賃貸借契約の終了をCに対し対抗することができない。」 |
【正解:○】平成元年・問6,平成6年・問12,平成10年・問12,平成12年・問12,平成16年・問13, ◆期間満了による原賃貸借の終了は,転借人に通知しなければ,対抗できない A (賃貸人) 本問題は,借地借家法からの出題です。 賃貸人の承諾を得て転貸借がされている場合に,期間の定めのある賃貸借が期間の満了〔期間の定めのない賃貸借では解約の申入れ〕によって終了するときは,賃貸人Aは転借人Cにその旨の通知をしないと,賃貸借の終了を転借人に対抗できません。(借地借家法34条1項) 賃貸人Aが転借人Cに,賃貸借が終了する旨を通知したときは,その通知がされた日から6月を経過することによって転貸借も終了します。(借地借家法34条2項) |
●原賃貸借の終了と転貸借の出題歴〔建物の転貸借〕 |
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原賃貸借が期間満了or解約申入れにより終了→平成元年・問6,平成6年・問12 原賃貸借が合意解除・→平成4年・問11,平成6年・問12,平成10年・問6,平成16年・問13, 原賃貸借が債務不履行による解除→平成10年・問6,平成16年・問13 転借人の使用継続による原賃貸借の法定更新
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3.「AB間で賃貸借契約を合意解除しても,転借人Cに不信な行為があるなどの特段の事情がない限り,賃貸人Aは,転借人Cに対し明渡しを請求することはできない。」 |
【正解:○】平成4年・問11,平成6年・問12,平成10年・問6,平成16年・問13, ◆賃貸人は,原賃貸借の合意解除を転借人に主張できない A (賃貸人) 賃貸人と賃借人とが賃貸借契約を合意解除しても,特段の事情がない限り,賃貸人は転借人に対してこの合意解除の効果を主張できない。(最高裁・昭和62.3.24) したがって,賃貸借の合意解除による賃貸借終了によって,明け渡し請求をすることはできません。 |
4.「賃貸人AがAB間の賃貸借契約を賃料不払いを理由に解除する場合は,転借人Cに通知等をして賃料をBに代わって支払う機会を与えなければならない。」 |
【正解:×】平成10年・問6・肢3,平成16年・問13, ◆債務不履行の解除による原賃貸借の終了 A (賃貸人) Bの債務不履行により解除しようとしている 賃借人の債務不履行により賃貸人が賃貸借契約を解除しようとする場合には,履行遅滞による解除権が適用され,AはBに対して相当の期間を定めて催告し,その期間にBの履行がなければ契約を解除できます。AB間の賃貸借契約が終了した結果,BはCに対して履行不能になり,転貸借は終了します。また,Cは,BC間の転貸借契約に基づく転借権をAに対抗することはできません。(民法541条) この場合,判例では,賃料の延滞を理由に賃貸借を解除するには,賃貸人Aは賃借人Bに催告するだけで足り、転借人Cに支払いの機会を与える必要はない,としています。(最高裁・平成9.2.25) |