Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
賃貸借に関する問題 BASE-2 転貸と賃借権の譲渡
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
○ | × | × | ○ | × | ○ | ○ |
民法の賃貸借に関する次の記述は、民法の規定および判例によれば○か、×か。 |
1.「賃借人は、賃貸人の承諾を受けなければ、賃借物を転貸することはできない。」
(昭和56-11-1)
【正解:○】 賃貸借は、信頼関係に基づいているため、賃借権の譲渡や転貸は制限されており、賃借人の同意を得ない、賃借権の無断譲渡や転貸は解除原因になります。(民法612条2項) 転貸や賃借権の譲渡は、どちらも賃貸人の承諾が必要です。(民法612条1項) |
●賃借権の無断譲渡と無断転貸 |
賃借権の無断譲渡と無断転貸は『無効』ではなく,『賃貸人には対抗できない』という位置付けです。賃貸人に無断で賃借権の譲渡や転貸をしたとしても,当事者の間〔賃借人と賃借権の譲受人or転借人〕では契約自体は有効であり(大審院・昭和2.4.25),賃借人には賃貸人の承諾を得る義務があります。(最高裁・昭和34.9.17) → 他人物売買とよく似ていますね。 |
2.「賃借人が適法に目的物を転貸した場合、転借人は、賃借人(転貸人)に対しては
賃料支払義務を負うが、賃貸人に対しては直接その義務を負うことはない。」
(昭和59-8-4)、(昭和56-11-2)
【正解:×】 賃貸人の承諾を得て〔「適法に」の意味〕、賃借の目的物を転貸したときは、転借人は賃貸人に対して、直接に義務を負います。 (民法613条1項) このため、賃貸人は転借人に直接賃料を請求することができ、転借人は、賃貸人に対して直接賃料を支払う義務があるとされています。 ただし、転借人は転貸借契約で定められた賃料の額の範囲で支払い義務を負うだけで、次のようになります。(金額の低いほうを賃貸人に支払えばよい。) 賃貸借の賃料 > 転貸借の賃料 のとき・・・ 転貸借の賃料 転貸借の賃料 > 賃貸借の賃料 のとき・・・ 賃貸借の賃料 ▼例えば,転借人が転貸借契約の成立時に,転貸借の賃料を一括して前払いしていたとしても,その支払いを賃貸人には対抗できず,民法613条1項により,転借人は賃貸人に賃料を支払わなければいけません。(大審院・昭和7.10.8) ●対比●賃借権の譲渡と比較して見ましょう → 昭和62年・問7・肢3 |
3.「A所有の建物をAから賃借中のBがAの承諾を得てその建物をCに転貸した。
Cは、Aに対して建物につき支出した有益費の償還を請求できる。」
【正解:×】 A(賃貸人) 転借人は賃貸人に対して権利を有せず、修繕の要求や費用償還請求はできません。 借地借家法では、賃貸人と転借人、賃借人と転借人との間に造作買取請求の排除の特約がなく、転借人が賃貸人の同意を得て建物に付加した造作があるときは、〔建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れにより終了する場合に〕、転借人は造作を時価で買い取るべきことを賃貸人に請求できますが(借地借家法第33条2項)、有益費については認められていません。 ▼転借人は、必要費や有益費の償還請求はできませんが、債権者代位権により、賃借人の賃貸人に対する修繕の請求を代位行使することはできます。 |
4.「Aの所有するマンションの専有部分をBに賃貸した場合、BがAに無断で賃借権を
第三者Cに譲渡する契約を締結したとしても、Aは、Cがマンションの使用を開始しない
限り、賃貸借契約を解除することができない。」(マンション管理士・H13-14-2)
【正解:○】 A(賃貸人) 賃借人が、賃貸人に無断で第三者に賃借権を譲渡または転貸した場合に契約を解除できるのは、転借人が使用または収益したときに限られる。(民法612条2項)、(最高裁・昭和28.9.25) 賃借権の譲渡や転貸借の契約が締結されただけで、使用・収益が開始されていない段階では解除権は発生しません。 ▼賃借権の譲渡・・・直接に賃借権そのものを移転すること。 転貸・・・賃借人が第三者に賃借物の使用収益をなさしめること。 |
5.「Aは、その所有する家屋をBに賃貸していたが、Bは、その家屋を無断でCに転貸した。
この転貸が一時的なものであり、BがCから家屋の返還を受けた後であっても、Aは、
AB間の賃貸借契約を解除できる。」
【正解:×】信頼関係破壊の理論 A(賃貸人) 転貸や賃借権の無断譲渡が背信的行為と認めるに足りない事情がある場合は、612条2項による解除はできないとするのが、判例です。(最高裁・昭和41.10.21) 一時的な転貸では、賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りる事情にはならないとされています。 |
6.「賃借人の債務不履行により賃貸借が解除されたときは、転貸借は履行不能により
終了し、その転貸が賃貸人の承諾を得たものであったとしても、転借人は賃貸人に
対抗することができない。」
【正解:○】賃借人の債務不履行による解除 転貸借はもともとの賃貸借契約をベースに成り立っており、賃貸借契約が賃借人の債務不履行を理由に解除されると、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求したときに,転貸人(賃借人)が転借人に使用・収益をなさしめる義務が履行不能により,転貸借は終了するとされています。(最高裁・平成9.2.25) ▼もともとの賃貸借が期間満了による終了の場合は、借地借家法が適用されるものならば(一時使用の賃貸借ではないとき)、賃貸人は期間満了による賃貸借の終了の通知を転借人にしなければならず、この通知を欠くと転借人に対抗できません。この通知がなされた日から六ヶ月が経過すると転貸借は終了します。(借地借家法・34条) ●原賃貸借の終了と転貸借の出題歴〔建物の転貸借〕 原賃貸借が期間満了or解約申入れにより終了→平成元年,平成6年, 原賃貸借が債務不履行による解除→平成10年問6・ 転借人の使用継続による原賃貸借の法定更新
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●関連判例 |
賃貸人と転借人の間には、直接の契約関係がないため、賃貸人は転借人に対して賃料の支払いの催告の義務を負わず、賃借人の賃料不払いがあれば、転借人への催告なしに賃貸借契約を解除できる。(大審院・昭和6.3.18)、(最高裁・平成9.2.25) |
7.「Aが、Bに賃貸している建物の賃料債権の先取特権に関する次の記述は○か×か。
Bが、建物をCに転貸したときには、Aは、Cが建物内に所有する動産に対しても、
先取特権を有する。」(H12-3-2) 類題・昭和46年
【正解:○】転借人の動産への先取特権 賃借権の譲渡または転貸の場合、賃貸人の先取特権は、賃借権の譲受人や転借人の動産に及びます。(民法314条) |