宅建過去問 権利の変動篇
担保物権の過去問アーカイブス 平成21年・問5 小問集合 担保物権の基本的性質
約定担保物権(抵当権・質権),法定担保物権(先取特権・留置権),
担保物権に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成21年・問5) |
1 抵当権者も先取特権者も、その目的物が火災により焼失して債務者が火災保険請求権を取得した場合には、その火災保険金請求権に物上代位することができる。 |
2 先取特権も質権も、債権者と債務者との間の契約により成立する。 |
3 留置権は動産についても不動産についても成立するのに対し、先取特権は動産については成立するが不動産については成立しない。 |
4 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有する必要があるのに対し、質権者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、質物を占有する必要がある。 |
<コメント> |
各肢とも担保物権についての基本的な出題ですが,正答率は余りよくはありません。ただし,肢2〜肢4とも再出題されるときには正答率はそれほど低くはならないでしょう。
宅建試験では,特に民法で,基本的な出題であり,難易度も高くはないにもかかわらず,なぜか正答率がよくないという現象があります。これは『マル暗記主義』で試験対策をしようとする受験者への出題者から発せられた警鐘と思われます。 |
●出題論点● |
(肢1)
先取特権・質権・抵当権には,物上代位性がある。
(肢2) 先取特権は法定担保物権。 (肢3) 留置権・先取特権とも,動産・不動産のどちらについても成立する。 (肢4) 留置権者・質権者とも,その目的物について,善良な管理者の注意をもって,善良な管理者の注意をもって占有しなければならない。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
正答率 | 63.3% |
1 抵当権者も先取特権者も、その目的物が火災により焼失して債務者が火災保険請求権を取得した場合には、その火災保険金請求権に物上代位することができる。 |
【正解:○】抵当権と物上代位(火災保険請求権) 昭和55年・問7・肢4,平成17年・問5・肢3,先取特権と物上代位 平成12年・問3・肢3, 物上代位性は,先取特権で規定され,質権・抵当権に準用されています(民法304条,350条,372条)が,留置権には認められていません。 物上代位性とは,先取特権・質権・抵当権の目的物の売却,賃貸,滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても,行使することができる(他の債権者に優して弁済を受けることができる)というものです。ただし,先取特権者・質権者・抵当権者は,その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければなりません。 火災保険請求権も,物上代位権行使の対象となります(判例)。 |
2 先取特権も質権も、債権者と債務者との間の契約により成立する。 |
【正解:×】先取特権・当サイトの該当箇所不動産先取特権・肢4, 質権や抵当権は,債権者とその債務者や物上保証人との合意によって成立する担保物権で,約定担保物権と呼ばれます〔厳密には,質権の設定は,当事者の合意のほかに,質権の目的物の引渡しによって,その効力を生じる(民法344条)〕。 それに対して,先取特権(民法303条)や留置権(民法295条)は,民法によって一定の債権者に付与される担保物権であり,法定担保物権と呼ばれます。 先取特権は法定担保物権であり,債権者と債務者との間の契約により成立するのではないため,本肢は誤りです。 |
3 留置権は動産についても不動産についても成立するのに対し、先取特権は動産については成立するが不動産については成立しない。 |
【正解:×】 留置権・先取特権とも,動産・不動産のどちらについても成立する(目的物とすることができる,行使することができる)ので(民法295条,311条,325条),本肢は誤りです。 |
4 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有する必要があるのに対し、質権者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、質物を占有する必要がある。 |
【正解:×】留置権 昭和61年・問2・肢3,質権 初出題, 留置権や質権では,債権全額の弁済を受けるまで,債権者が目的物を占有するので,被担保債権弁済後の留置物や質物の返還義務の履行を確保するため,占有の仕方についても民法では規定しています。 留置権者は,善良な管理者の注意をもって,留置物を占有しなければならず(民法298条1項),この規定は,質権でも準用されています(民法350条)。 つまり,質権者も,善良な管理者の注意をもって,質物を占有しなければならないので,本肢は誤りです。 |