Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の基本確認5 担保不動産競売
〔競売による不動産担保権の実行〕・一括競売・抵当権の順位の変更
正解・解説
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
○ | × | × | × | × |
●抵当権の実行の代表例 |
・担保権実行としての競売 →競落人については、第三取得者の問題5参照
・抵当権の私的実行(抵当権者自ら抵当不動産の所有者になる、買受人を探して売却をすすめるなど) ・担保不動産収益執行制度 民法では395条などで顔を覗かせている。平成15年の民事執行法で新たに創設。民法371条の改正により抵当不動産の交換価値だけでなく、収益にも及ぶとされたことにより新設された。裁判所の選任した管理人に占有を移してその収益の中から配当等を実施する。抵当権者は競売開始決定による差押の後担保不動産収益執行を併用することもできる。 |
◆担保権実行としての競売の要件 1) 抵当権の存在 後順位抵当権者でも競売申立はできるが、先順位抵当権者が優先弁済を受けると剰余を生じる見込みがないときには、原則として競売手続は取消される。(民事執行法) 2) 弁済期の到来 被担保債権が債務不履行に陥っていること ⇔ただし、抵当権消滅請求の申出され拒否したときの競売のように弁済期以前でも抵当権者が競売申立ができる場合がある。この場合は抵当権者が抵当権消滅請求の申出の送達を受けた日から2ヵ月内に、競売申立をすることができます。 |
◆担保権実行としての競売手続 競売の申立・・・目的物の所在地を管轄する地方裁判所〔執行裁判所〕に抵当権者〔申立債権者〕が申立。要件を具備していれば競売開始決定。 |
●一般債権者としての権利行使 |
抵当権者は、抵当権の被担保債権の債権者なので、一般の債権者の立場で、抵当不動産以外の債務者の財産について強制執行の申立をして弁済を受けることができます。 しかし、無制限にこれを認めると、一般債権者が不利になるため、民法は制限を設けています。 抵当不動産より先に一般債権者が抵当不動産以外の財産について強制執行を開始した場合を除き、 抵当権者はまず抵当不動産から弁済を受け、それでも債権の不足分があるときに抵当不動産以外の財産から弁済を受けられるとしました。(民法394条1項) |
抵当権実行の具体的な問題は以下を参照してください。
⇒ 競売の申立て〔昭和44年〕,共同抵当〔昭和42年・平成13年〕
抵当権に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か、×か。 |
1.「抵当権設定登記がなくとも、抵当権設定者に対しては抵当権を対抗することができる。
従って、弁済期に弁済がなければ、抵当権に基づいて競売を申し立てることができる。」
【正解:○】
◆登記のない抵当権でも競売の申立はできる 抵当権においても、登記は第三者に対する対抗要件です。抵当権設定登記がなくても設定者に対しては抵当権を主張でき、競売の申立をすることができます。(確定判決や公正証書等が必要。)(最高裁・昭和25.10.24) ただし、登記がないと第三者(他の債権者)に対して抵当権に基づく優先弁済的効力を対抗できません。また、登記がないと第三取得者に対して抵当権を対抗できません。 未登記の抵当権には優先弁済権はないため、一般債権者として配当を受けることになります。〔一般債権者がほかにいる場合は債権額に応じた平等配分になります。〕 |
2.「土地に抵当権を設定した後、抵当権設定者がその抵当地に建物を築造した場合、
抵当権者は、建物を土地とともに競売して、建物の競売代金からも優先弁済を受ける
ことができる。」(昭和62,H1-7-4,H4-6-2) 法改正
【正解:×】
◆一括競売 更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売) ―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 土地に抵当権を設定した後、抵当権設定者や抵当権者に対抗できない第三者がその抵当地に建物を建てた場合、抵当権者は、土地とともに建物を競売することもできます。(一括競売) しかし、建物の競売代金から優先弁済を受けることはできません。 この場合の建物の売却代金は抵当権設定者に帰属します。 ▼法改正 抵当権の設定後に、抵当地上に建物が築造されたとき、その建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権原を持っていないならば、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができます。元々は更地に抵当権を設定したので、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地からだけで、建物の代金は建物所有者に返還されます。(民法389条) なお、当然ですが、土地のみに抵当権を設定した当時にすでに建物があった場合や建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権原を持っている場合〔更地に抵当権を設定した後に土地の賃借権登記をし抵当権者の同意の登記を得ていた場合や改正施行前に要件を満たしていた短期賃貸借の場合など〕は、一括競売はできません。 ▼抵当権者は、抵当地のみ競売、土地と建物の一括競売、どちらも選択でき、必ず一括競売しなければいけないという義務はありません。 ▼一括競売は、法定地上権が成立していないことからも考えることができます。(昭和62) もし、土地のみが競売にかけられた場合は、抵当権設定当時にはその土地は更地であったことから、建物には法定地上権はありません。土地を競落した人が建物の収去請求をすることになります。一括競売は、このような事態を回避するためのものと考えることができます。 |
●新旧条文比較 第389条 |
【旧】 抵当権設定の後 其設定者が抵当地に建物を築造したるときは抵当権者は 土地と共に之を競売することを得 但 其優先権は土地の代価に付てのみ 之を行うことを得 |
【新】 1 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 2 前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。 |
●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない |
条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。 建物を築造 土地に抵当権設定 抵当権の実行(競売) ――●―――――――――――●――――――●―――――→ |
●一括競売できない建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当地が更地ではない場合〕 |
第三者 | 抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を 有している賃借人が築造した建物 |
〔改正法施行後〕 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を 付与された土地の賃借人が築造した建物 |
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抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を 満たしていた土地の賃借人が築造した建物 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を満たしていた〕 |
●一括競売できる建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物 |
第三者 | 抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与 されていない土地の賃借人」が築造した建物 |
抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない 土地の賃借人」が所有している建物 |
●参考問題 |
「AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後、Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合、土地について競売が実施されると、建物について法定地上権が成立する。」(昭和62-5-2) |
【正解:×】 法定地上権とは、抵当権設定当時に、土地と建物が同一人が所有していて、抵当権の実行によって土地と建物の所有者が異なることになったときに、成立するものであり、 本設問のケースでは、抵当権設定当時には更地であり、法定地上権は成立していません。 なお、一括競売するかどうかは抵当権者の裁量にまかされており、必ず一括競売しなければいけないということはないため、本設問のように土地だけ競売するということもありえます。 |
●予想問題 |
1.「Aは,Bに対し,自己所有の土地に抵当権を設定した後,第三者CがBの同意を得ないままその土地を賃借し,その土地上に建物を建築した。Bは,土地とともに地上建物を競売することができる。」 |
【正解:○】法改正前は,一括競売できるのは建物が抵当権設定者自身が築造した場合に限られていましたが,法改正により,第三者が築造した場合でもその第三者が敷地利用権を抵当権者に対抗できない限り一括競売できるようになりました。 本肢では,第三者CがBの同意を得ないまま賃借していたので敷地利用権を抵当権者Bに対抗できないため,Bは,土地とともに地上建物を一括競売できます。 |
3. 「抵当権者は,抵当権の実行をしようとするときには,あらかじめ抵当権設定者に
通知をしなければならない。ただし,この場合の抵当権の実行とは,抵当権消滅請求
を受けての競売申立は含めないものとする」 法改正
【正解:×】
◆第三取得者への抵当権実行の通知 抵当権者が抵当権を実行するときは、あらかじめ抵当不動産の第三取得者に対して、その旨を通知しなければいけないという規定がありましたが平成15年改正で廃止されました。 |
▼混同注意・改正点・抵当権消滅請求を拒絶するときの競売申立通知義務 第三取得者が抵当権消滅請求をした場合に,抵当権者が競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人に通知しなければいけません。(385条) |
4. 「抵当権設定者である債務者が、被担保債務について期限に弁済しない場合、
抵当権者が優先弁済を受けるためには、必ず抵当不動産の競売によらなければならず、
所有権を直ちに抵当権者に移転させる旨の特約をすることはできない。」(類・昭和46)
【正解:×】平成13年・マンション管理士試験に出題
◆抵当権の私的実行―抵当直流(ていとうじきながれ) 抵当権の被担保債権の債務者が期限に弁済しない場合、所有権を直ちに債権者に移転させる旨の特約をしておくことは可能であり、抵当権者は抵当不動産の競売によらずに、直ちに所有権を抵当権者に移転させることで優先弁済を受けることができる。 (大審院・明治41.3.20) |
●参考問題 |
1.「債務者が弁済しない場合にただちに目的物を抵当権者の所有に帰属させるいわゆる流抵当契約は、民法上禁止されている。」(昭和46) |
【正解:×】 競売によらない優先弁済も上で見たように認められています。 |
5.「抵当権は物権であり、登記をしない限り、当事者間においてもその効力は発生しない
から、その旨の登記のない抵当権者は競売の申立てをすることはできない。」
【正解:×】
◆登記のない抵当権者も競売の申立てはできる 確かに、抵当権の「第三者への対抗要件」は登記ですが、抵当権の登記をしていなくても、当事者間では有効です。したがって、抵当権の登記のない抵当権者でも競売の申立てをすることができます。(最高裁・昭和25.10.24) |
●優先弁済のルール | |||||||||
例えば、抵当権の実行により手続費用を除いた売却代金が9,000万円の例をみましょう。(利息その他の定期金はないものとして計算します。)
第1順位の抵当権者は、6,000万円全部もらえます。 第2順位の抵当権者は、配当は3,000万円になり、残りの1,000万円は、抵当権のない一般債権となって存続します。 第3順位の抵当権者は、配当はありません。抵当権の実行により抵当権は消滅しますが、1,500万円の債権は抵当権のない一般債権となって存続します 残額があれば、抵当権のない一般債権者も弁済が受けられますが、このケースでは配当はありません。 |
●抵当権の順位の変更 | |||||||||
抵当権の順位の変更には、関係者全員の合意が必要です。(374条1項)
この表での順位変更を例に取ると、Bは2番抵当権であることに変わりはありませんが、 第1順位がAからCに変わったことにより、Bへの配当に影響が生じる可能性があります。 この事例での競売による配当が4,000万円だとすると、順位変更の前は、Bは2,000万円がまるまる配当されたはずなのに、順位の変更によりBは、第1順位になったCが3,000万円の配当を受けるので残りの1,000万円しか配当をもらえなくなります。 このように、順位の変更による影響が大きい為、順位変更には登記が必要になります。 ▼抵当権の順位の変更とともに、被担保債権も一緒に移動されることに注意してください。単なる順位の変更だけでは配当等の関係から意味をなさないからです。 |