宅建過去問 宅建業法
自ら売主の8種制限の過去問アーカイブス 平成21年・問31
自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結等の制限
宅地建物取引業者Aが自ら売主として、B所有の宅地 (以下この問において「甲宅地」という。) を、宅地建物取引業者でない買主Cに売却する場合における次の記述のうち、 宅地建物取引業法の規定によれば、誤っているものの組合せはどれか。(平成21年・問31) |
ア Aは、甲宅地の造成工事の完了後であれば、Bから甲宅地を取得する契約の有無にかかわらず、Cとの間で売買契約を締結することができる。 |
イ Aは、Bから甲宅地を取得する契約が締結されているときであっても、その取得する契約に係る代金の一部を支払う前であれば、Cとの間で売買契約を締結することができない。 |
ウ Aは、甲宅地の売買が宅地建物取引業法第41条第1項に規定する手付金等の保全措置が必要な売買に該当するとき、Cから受け取る手付金について当該保全措置を講じておけば、Cとの間で売買契約を締結することができる。 |
1 ア、イ 2 ア、ウ 3 イ、ウ 4 ア、イ、ウ |
<コメント> |
本問題は,ウについて,合格発表時点まで,正誤の判断が分かれていました〔ウを誤りとした指導機関 (正解肢を4としていた) の大半は合格発表直後に,正解肢を1に変更〕。このため,本問題は過去問集によっては収録していない場合があります。
なお,「誤っているものの組合せはどれか」という設定は,宅建試験のこれまでの問題では,「誤っているものを全て挙げている組合せはどれか」と解釈して解くしかありません。 |
●出題論点● |
ア 他人に所有権が帰属している宅地または建物〔他人物〕については,当該宅地・建物を取得する契約を締結していなければ,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することはできない。
イ 他人に所有権が帰属している宅地または建物〔他人物〕については,当該宅地・建物を取得する契約を締結していれば,代金の支払を完了していなくても,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することができる。 ウ 未完成物件については,当該工事に関し必要とされる法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後で,かつ,手付金等保全措置を講じていれば,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結できる。 |
【正解】1
ア | イ | ウ |
× | × | ○ |
正答率 | 50.2% |
●自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限 |
第33条の2 宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 一 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。 二 当該宅地又は建物の売買が第41条第1項に規定する売買に該当する場合で当該売買に関して同項第1号又は第2号に掲げる措置が講じられているとき。 |
<アウトライン>
宅建業法では,<宅建業者は,原則として,『自己の所有に属しない宅地又は建物』 について,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約(予約を含む。)を締結してはならない>としています。 ただし,以下の場合は適用が除外されています。 1) 他人に所有権が帰属する宅地建物については,宅建業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合 2) 未完成物件については,手付金等の保全措置が必要な売買に該当する場合で,当該売買に関して手付金等保全措置が講じられているとき。 なお,条文では,「次の各号のいずれかに該当する場合」としているので,1) 2) ともそれぞれ別個のカテゴリーと考えます。 |
ア Aは、甲宅地の造成工事の完了後であれば、Bから甲宅地を取得する契約の有無にかかわらず、Cとの間で売買契約を締結することができる。 |
【正解:×】平成11年・問34・肢1,(競売物件)平成13年・問34・エ, ◆取得する契約をしていなければ,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することはできない。 宅建業者は,他人に所有権が帰属している宅地または建物〔他人物〕については,当該宅地・建物を取得する契約(予約を含み,その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結していなければ,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することはできない(宅建業法33条の2第1号) ので,本肢は誤りです。 |
イ Aは、Bから甲宅地を取得する契約が締結されているときであっても、その取得する契約に係る代金の一部を支払う前であれば、Cとの間で売買契約を締結することができない。 |
【正解:×】平成3年・問42・肢2, ◆取得する契約を締結していれば,代金の支払を完了していなくても,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することができる。 他人に所有権が帰属している宅地または建物〔他人物〕については,当該宅地・建物を取得する契約(予約を含み,その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結していれば,代金の支払を完了していなくても※,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することができる(宅建業法33条の2第1号) ので,本肢は誤りです。 ※「引渡しを受けていない場合」や「所有権移転登記をしていない場合」も,当該宅地・建物を取得する契約(予約を含み,その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結していれば,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することができる。 |
ウ Aは、甲宅地の売買が宅地建物取引業法第41条第1項に規定する手付金等の保全措置が必要な売買に該当するとき、Cから受け取る手付金について当該保全措置を講じておけば、Cとの間で売買契約を締結することができる。 |
【正解:○】昭和57年・問46・肢2,平成13年・問45・イ, ◆未完成物件で手付金等保全措置が講じられている場合は,自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結することができる。 未完成物件については,当該工事に関し必要とされる法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後で(宅建業法36条),かつ,手付金等保全措置を講じていれば(宅建業法41条1項),自ら売主として宅建業者ではない者と売買契約を締結できるとされています(宅建業法33条の2第2号) 。 したがって,宅建業者Aは,手付金等の保全措置が必要な未完成物件の売買に該当する場合〔手付金等の額が代金の額の5%超かつ1,000万円超〕に※,当該保全措置を講じておけば,宅建業者ではないCとの間で売買契約を締結することができます。 ※ 手付金等の保全措置が必要な未完成物件の売買に該当する場合に,当該保全措置を講じておかなければ,宅建業者ではない者との間で売買契約を締結することはできません。この意味で,本肢は,「条文を見たことがあれば,単に国語の問題に過ぎない」という見方をすることもできます。 ▼対比すべき参考問題 【(完成物件)手付金等保全措置を講じていても,他人物売買の制限は適用される】平成9年・問45・肢4,⇒ 他人に所有権が帰属する宅地・建物について,宅建業者が当該宅地または建物を取得できることが明らかな場合でなければ,41条の2の規定による手付金等の保全措置 (完成物件の保全措置) を講じても,売買契約を宅建業者ではない者と締結することはできない。 |
●ウについて |
ウについては問題文がわかりにくいのではという意見があります。ただ,試験会場で短時間に正誤の判定をしなければならない以上,正誤の判断に迷った場合に備えて,過去問の出題のクセについてもある程度は知っておく必要があります。 問31の問題文の冒頭の設定では,「B所有の宅地」となっていますが,アイウともそれぞれ別個のものであり,問題文冒頭の設定に新たな属性がそれぞれ加わっていると考えるべきです。問題文冒頭の設定にこだわりすぎると正誤が判断できなくなります(過去問でも問題文冒頭の設定と異なるものを付加した選択肢がある問題が出題されています)。 ウでは,「手付金等の保全措置が必要な売買に該当する場合」としているので,宅建業法33条の2第2号から判断すべきケースであることは明らかです。 宅建試験では,これまでの過去問を見る限り,「条文ソノママの表現をしているときは,条文及び条文の通説 (告示,通達等も含む。) で判断せよ」 という暗黙の前提があると考えるしかありません。 残念ながら,出題者はアノ手コノ手で受験者を戸惑わせるのが通例です。問題の誘導は必ずしも誰にでもわかるような形でされているとは限りません (不親切な場合もある)。 |