宅建過去問 宅建業法

営業保証金の過去問アーカイブス 平成20年・問34


 宅地建物取引業者A (甲県知事免許) は、甲県内に本店Xと支店Yを設置して、額面金額1,000万円の国債証券と500万円の金銭を営業保証金として供託して営業している。この場合の営業保証金に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、本店Xと支店Yとでは、最寄りの供託所を異にする。 (平成20年・問34)

1 が新たに支店Zを甲県内に設置したときは、本店の最寄りの供託所に政令で定める額の営業保証金を供託すれば、支店での事業を開始することができる。

2 が、を本店とし、を支店としたときは、は、金銭の部分に限り、の最寄りの供託所への営業保証金の保管替えを請求することができる。

3 は、額面金額1,000万円の地方債証券を新たに供託すれば、既に供託している同額の国債証券と変換することができる。その場合、遅滞なく、甲県知事に営業保証金の変換の届出をしなければならない。

4 は、営業保証金の還付が行われ、営業保証金が政令で定める額に不足することになったときは、その旨の通知書の送付を受けた日から2週間以内にその不足額を供託しなければ、免許取消の処分を受けることがある。

<コメント>  
 正解肢の肢4は,類題が平成13年に出題されています。肢1,肢2も頻出問題です。

 正答率が低い〔61.6%〕のは,肢3で平成7年以来の<営業保証金の変換>の文言が出ているため,「なにコレ?」と思った受験者が多かったものと思われます〔基本書で説明しているものは少ないので,出題者はそれに着眼したのでしょう〕。正誤の判断箇所は,<有価証券の評価額>にあったのですが,見慣れぬ用語に足をすくわれたということでしょう。

 見慣れぬ用語が出てきても冷静さを失うことなく〔そこだけに目を奪われないで〕,問題文全体をよく吟味して正誤を判断できるようにしておく必要があります。

●出題論点●
 

【正解】4

× × ×

 正答率  61.6%

1 が新たに支店Zを甲県内に設置したときは、本店の最寄りの供託所に政令で定める額の営業保証金を供託すれば、支店での事業を開始することができる。

【正解:×平成10年・問37・肢3平成12年・問44・肢2平成15年・問34・肢3平成16年・問35・肢1

◆支店設置の供託 ⇒ 供託の届出 ⇒ 支店の業務開始 

 支店で業務を開始できるのは,支店開設による供託をした旨の届出をしてからなので,誤りです

  支店設置    供託       供託した旨の届出
 ―――――――――――――――――――――
                       |⇒業務開始

 支店を設置したときは,本店の最寄りの供託所に供託し,供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して,供託した旨を免許権者に届け出なければなりません(宅建業法26条2項,25条1項,4項)

 支店での業務を開始できるのは,それから〔供託した旨の届出をしてから〕です(宅建業法26条2項,25条5項)

2 が、を本店とし、を支店としたときは、は、金銭の部分に限り、の最寄りの供託所への営業保証金の保管替えを請求することができる。

【正解:×平成6年・問45・肢3平成7年・問36・肢2平成11年・問38・肢4

◆保管替えは『金銭のみで供託しているとき』

 保管替えの請求ができるのは,金銭のみで営業保証金を供託している場合です(宅建業法29条1項前段)は,国債証券〔額面1,000万円〕と金銭〔500万円〕で供託しているので,保管替えの請求をすることはできません。

 は,移転後の主たる事務所Yの最寄りの供託所に,営業保証金1,500万円を新たに供託しなければなりません〔二重供託〕(宅建業法29条1項後段)

 は,その供託書〔新たに供託したもの〕をもって,移転前の主たる事務所の最寄りの供託所に行き,もとの営業保証金を,公告なしに取り戻すことができます(宅建業法30条2項,営業保証金規則(法務省・国土交通省令)8条2項)

保管替えがされた場合や二重供託した場合は,遅滞なく,その旨を免許権者に届け出なければなりません(施行規則15条の4)

●主たる事務所の移転による営業保証金の供託

 主たる事務所  ⇒  主たる事務所
 従たる事務所  従たる事務所

 この問題の設定では,の最寄りの供託所と,の最寄りの供託所は異なるので,を主たる事務所にすると,の最寄りの供託所に新たに供託しなければなりません〔二重供託〕。
 ⇒ この場合,移転前の営業保証金は,公告をしなくても,取戻しができます。

 しかし,金銭のみで供託している場合は,「保管替え」の請求をすれば,二重供託する必要はありません。

3 は、額面金額1,000万円の地方債証券を新たに供託すれば、既に供託している同額の国債証券と変換することができる。その場合、遅滞なく、甲県知事に営業保証金の変換の届出をしなければならない。

【正解:×〔有価証券の評価額〕平成11年・問38・肢1平成17年・問33・肢1
       〔営業保証金の変換〕平成7年・問36・肢1

◆有価証券の評価額 (+営業保証金の変換の届出)

 本肢は,前半の<額面金額1,000万円の地方債証券を新たに供託すれば、既に供託している同額の国債証券と変換することができる>が誤りです〔後半は正しい〕。

 国債証券は額面通りの評価額になりますが,地方債証券の評価額は額面の90%なので(施行規則15条1項2号),営業保証金の変換をするには,地方債証券〔評価額900万円〕のほかに,100万円分が不足しています。

 このため,本肢の場合,地方債証券 (額面1,000万円) のほかに,100万円分を供託しなければ,営業保証金の変換をすることはできません(施行規則15条の4の2)

●営業保証金の変換について

 営業保証金の変換・・・営業保証金の供託方法には,<金銭,有価証券,金銭+有価証券>の三種類があり,供託方法を変えることを営業保証金の変換といいます。

金銭 有価証券
金銭+有価証券

有価証券 別の有価証券
金銭
金銭+有価証券

   

金銭+有価証券 金銭
金銭+有価証券

 有価証券の種類を変更する場合〔別の有価証券にする〕も該当し,本肢はこの場合です。

 本肢は,<有価証券(国債証券)+金銭⇒有価証券(地方債証券)+現金>にする場合です。

 宅建業者は,営業保証金の変換のために新たに供託したときは,遅滞なく,その旨を,供託金正本の写しを添付して,免許権者に届け出なければいけません(施行規則15条の4の2)

 国債証券は額面金額そのものを評価されますが,地方債証券では額面の90%に評価されるので,本肢では,国債証券1,000万円に代わるものとして,地方債証券(額面1,000万円)とともに,100万円分〔金銭または有価証券〕を供託する必要があります。

●本肢での営業保証金の変換

 国債証券
 額面1,000万円
  ⇒  地方債証券 額面1,000万円 
 (評価額900万円)
 金銭100万円,
 または,有価証券 (評価額100万円分)

有価証券の額面の評価額

 国債証券  額面全額
 地方債証券
 政府保証債
 額面金額の90/100
 その他の債権  額面金額の80/100
●宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 (国土交通省)
1 営業保証金の差し替えをした場合の届出について(規則第15条の4の2関係)

 営業保証金を有価証券をもって供託した場合において、当該有価証券の償還期の到来等により、従前の供託物に代わる新たな供託物を供託した後、従前の供託物の取戻しをすることを一般に供託物の差し替えというが、規則第15条の4の2は、営業保証金としての供託物の変換をした場合の届出について規定したものであり、この「変換」とは、いわゆる「差し替え」のことをいうものである。

 なお、この場合の取戻しは、法第30条第2項の規定による公告をしなくても行い得るもので、この差し替えをした場合にあっては、従前の供託物の取戻しまでに、新たな供託に係る供託書正本(みなし供託書正本を含む。以下同じ。)の写しを添付して届出をすることとする。

4 は、営業保証金の還付が行われ、営業保証金が政令で定める額に不足することになったときは、その旨の通知書の送付を受けた日から2週間以内にその不足額を供託しなければ、免許取消の処分を受けることがある。

【正解:平成13年・問33・肢3

◆還付による不足額の供託

 還付が行われたことにより,営業保証金が不足しすることになった場合に,通知書の送付を受けた日から2週間以内に不足額を供託しないときは,業務停止処分の対象になり,情状が特に重いときは免許取消処分を受けることがあります(宅建業法28条1項,営業保証金規則4条,65条2項2号,66条1項9号)

不足額を供託したときは,供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して,2週間以内に免許権者に届け出なければいけません(宅建業法28条2項)

●営業保証金の還付後の流れ
  営業保証金の還付
   ↓
  供託所は,還付請求権者が提出した通知書3通のうち,2通を免許権者に送付
   ↓ 
 免許権者から,宅建業者に,還付請求権者が提出した通知書のうち1通が送付される
   ↓
 通知書の送付を受けてから2週間以内に営業保証金の不足額を供託
   ↓
 供託してから2週間以内に免許権者に届出
  (供託物受入れの記載のある供託所の写しを添付する)

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