税法その他 実戦篇

所得税の過去問アーカイブス 平成2年・問29


 ガイド   平成2年の問題は,肢2・3の所得税法や所得税法の基本通達の出題があり,
所得税に関する問題としては,難問に入ります。ただ,肢4の規定は覚えておく
必要があります。過去問頻出の「3,000万円の特別控除」の規定だからです。

土地又は建物を譲渡した場合の譲渡所得の課税に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成2年・問29)

1.「相続税を納付するために,相続により取得した土地を税務署長の許可を受けて物納した場合には,その物納価額を譲渡による収入金額として課税される。」

2.「保証債務を履行するために土地を譲渡した場合において,その履行に伴う求償権の一部を行使することができないこととなったときは,その行使することができないこととなった金額は,なかったものとされる。」

3.「離婚に伴う財産分与として自己が所有する土地・家屋を妻の名義に変更した場合には,その土地・家屋は,慰謝料の代わりに無償で妻に与えているので,譲渡所得の金額はないものとして,課税されない。」

4.「建物の所有期間が4年,土地の所有期間が6年である居住用財産を譲渡した場合には,居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除は,譲渡所得が最も多額な資産の方から順次控除する。」

【正解】

× × ×

1.「相続税を納付するために,相続により取得した土地を税務署長の許可を受けて物納した場合には,その物納価額を譲渡による収入金額として課税される。」

【正解:×

◆物納=当該財産の譲渡がなかったものとみなす

 相続税を納付するために,個人がその財産を税務署長の許可を受けて物納した場合には,所得税法第33条〔譲渡所得〕の規定の適用については,当該財産の譲渡がなかったものとみなされるので,所得税は課税されません。(租税特別措置法40条の3)

●相続税法
(物納)第41条 税務署長は、納税義務者について第33条又は国税通則法第35条第2項(申告納税方式による国税等の納付)の規定により納付すべき相続税額を延納によつても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる。
●租税特別措置法
(物納による譲渡所得等の非課税)第40条の3 個人がその財産を相続税法第41条第1項の許可を受けて物納した場合には、所得税法第32条〔山林所得〕又は第33条〔譲渡所得〕の規定の適用については、当該財産の譲渡がなかつたものとみなす

●所得税法32条(山林所得)
第32条 山林所得とは、山林の伐採又は譲渡による所得をいう。

●所得税法33条(譲渡所得)
第33条 譲渡所得とは、資産の譲渡建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

2.「保証債務を履行するために土地を譲渡した場合において,その履行に伴う求償権の一部を行使することができないこととなったときは,その行使することができないこととなった金額は,なかったものとされる。」

【正解:

◆求償権が行使できなかった金額=譲渡所得の計算上なかったものとみなされる

 保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合に,その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは,その行使することができないこととなった金額を回収することができないこととなった金額とみなして,譲渡所得の金額の計算上,なかったものとみなされます。(所得税法64条2項,同1項)

【参考】不動産鑑定士・平成14年・問35・肢3に出題。

3.「離婚に伴う財産分与として自己が所有する土地・家屋を妻の名義に変更した場合には,その土地・家屋は,慰謝料の代わりに無償で妻に与えているので,譲渡所得の金額はないものとして,課税されない。」

【正解:×

◆離婚に伴う財産分与=時価で資産を譲渡したことになるので課税される

●財産分与による資産の移転は,財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡であり,贈与ではありません。

 離婚に伴う財産分与として資産の移転があった場合には,その分与をした者は,その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなるので,譲渡所得の課税対象になります。(所得税法33条1項,基本通達)→ 所得税法・基本通達・譲渡所得

●所得税法・基本通達
(財産分与による資産の移転)
33−1の4 民法第768条《財産分与の請求》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。(昭50直資3−11、直所3−19追加)

(注)1 財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡であり、贈与ではないから、法第59条第1項《みなし譲渡課税》の規定は適用されない。

2 財産分与により取得した資産の取得費については、38−6参照

(分与財産の取得費)
38−6
 民法第768条《財産分与の請求》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与により取得した財産は、その取得した者がその分与を受けた時においてその時の価額により取得したこととなることに留意する。

4.「建物の所有期間が4年,土地の所有期間が6年である居住用財産を譲渡した場合には,居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除は,譲渡所得が最も多額な資産の方から順次控除する。」

【正解:×

◆短期譲渡所得から先に控除する

 居住用財産の譲渡所得が,「短期譲渡所得〔その年の1月1日で所有期間5年以内〕と「長期譲渡所得〔その年の1月1日で所有期間5年超〕と2種類あるときは,〔本肢のように,土地の所有期間が5年超,建物の所有期間が5年以内のときに,2種類あることになります。〕

 3,000万円はまず短期譲渡所得から控除し(差し引き),

 3,000万の特別控除額のうち短期譲渡所得から引ききれない部分があるときはその分を長期譲渡所得から控除(差し引き)します。(租税特別措置法35条1項1号,2号)

 本肢の場合,建物の譲渡所得から先に控除します。「譲渡所得が最も多額な資産の方から順次控除する」のではありません。

土地の所有期間が5年以内,建物の所有期間が5年超というケースでもこの規定が適用されます。→借地上に建物を建てた後で,借地である建物の敷地を取得した場合


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