税法その他 実戦篇

所得税の過去問アーカイブス 平成13年・問26


租税特別措置法第41条の5の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。 (平成13年・問26)

1.「譲渡資産とされる家屋については,譲渡をした年の1月1日における所有期間が10年を超えるものであり,かつ,その居住の用に供していた期間が10年以上であることが適用要件とされている。」

2.「買換資産とされる家屋については,租税特別措置法第41条の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の適用を受けないことが適用要件とされている。」

3.「買換資産とされる家屋については,譲渡をした日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに取得するものであることが適用要件とされている。」

4.「譲渡資産とされる家屋については,居住の用に供しているもの又は居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されるものであることが適用要件とされている。」

【正解】

× × ×

居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
 個人居住用財産を譲渡して別の居住用財産に買換えるときに譲渡損失がある場合、一定の要件のもとに、譲渡損失を3年間に渡って繰越して所得から控除できる制度で、平成10年の譲渡分の所得税から創設されました。

 譲渡資産の譲渡損失の金額については、その年の翌年以後3年内の各年分(合計所得金額が3,000万円以下の年分に限る)の総所得金額等からの繰越控除が認められます。

 バブル崩壊後では、不動産の下落で居住用財産は含み損があり、これに対応する政策がないと不動産の売買は促進されない為、創られた制度です。

1.「譲渡資産とされる家屋については,譲渡をした年の1月1日における所有期間が10年を超えるものであり,かつ,その居住の用に供していた期間が10年以上であることが適用要件とされている。」

【正解:×

◆譲渡資産の所有期間は5年超

 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の譲渡資産の適用の所有期間の要件は5年超です。(租税特別措置法・41条の5第3項第1号)

譲渡資産のこのほかの適用要件

・個人の居住用財産であること。

・譲渡先が、配偶者、直系親族、生計を一にする親族などの特殊関係者ではないこと

・譲渡原因が贈与や現物出資によるものではないこと。

・譲渡した居住用家屋の敷地に係る譲渡損失のうち面積500平方メートルを超える部分に相当する金額は除かれる。

●適用についての注意事項
 その年またはその年の前年以前3年内における資産の譲渡について,下記の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けているとこの特例の適用を受けることができない(租税特別措置法41条の5第7項1号)

  ☆居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例(所有期間10年超)

  ☆3,000万円特別控除

  ☆特定の居住用財産の買換え・交換の場合の特例

2.「買換資産とされる家屋については,租税特別措置法第41条の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の適用を受けないことが適用要件とされている。」

【正解:×平成11年,13年

◆重複適用−住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除

 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(住宅ローン控除)と重複適用することができます。

※居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除は,買換資産について,償還期間10年以上の住宅借入金等を有することが適用要件です。

3.「買換資産とされる家屋については,譲渡をした日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに取得するものであることが適用要件とされている。」

【正解:×

◆買換資産の取得時期

 買換資産については,譲渡した年の属する年の翌年の12月31日までに取得することが適用の要件になっています。

買換資産のこのほかの適用要件

・譲渡した年の属する年の翌年12月31日までに買換資産を取得し、かつ、

・当該取得の日に属する年の翌年12月31日までの間に居住の用に供した、または、供する見込みであること

・住宅の床面積 50平方メートル以上(登記簿の面積)

・繰越控除年の年末において、買換え資産に係る一定の住宅借入金等の残高を残していること(金融機関などからの償還期間10年以上のもの)

4.「譲渡資産とされる家屋については,居住の用に供しているもの又は居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されるものであることが適用要件とされている。」

【正解:

◆譲渡資産の譲渡の時期

 譲渡資産は,現在居住の用に供しているものか,居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されるものであることが適用要件になっています。

特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の創設-平成16年改正
 所有期間が5年を超える一定の居住用財産を譲渡し、譲渡契約の締結の前日において、譲渡する居住用財産について住宅借入金等の残高がある場合に、その住宅借入金等の残高が譲渡価額を超えるときはその差額を限度として譲渡損失の3年間の繰越控除を認める制度が創設されました。(租税特別措置法41条の5の2)

◆使い分け

譲渡する一定の居住用財産について住宅借入金等の残高がないときには、この新設の特例は使えない。残高がある場合は「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」を使うこともできる。

・この新設の特例では買換資産について取得要件はない(買換資産を取得しなくてもよい)。「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」では取得する資産について要件がある。

・「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」では譲渡損失は全額繰越控除できるが、この新設の特例では上限が「住宅借入金等の残高−譲渡価額」に限られる。

●特定の居住用財産の譲渡損失の損益通産及び繰越控除制度の創設 (41条の5の2)
  → 住宅を譲渡しても住宅ローンを返済しきれない人に対する支援が狙い。

 上の41条の5の適用を受けるには,特定の居住用財産を譲渡するとともに,買換えた居住用資産がなければいけませんでしたが,新たに創設された41条の5の2では居住用資産の取得要件がないことから,特定の居住用財産を譲渡したのみでも,適用を受けることができます。

 つまり,居住用財産を譲渡した後に賃貸住宅に住み替えたり,両親等の親族の住宅に移り住む場合でも,この制度が適用されます。資産デフレによる住宅価格の下落やリストラの状況下への対処法として選択肢のひとつを増やす意義があります。

 ◎41条の5と41条の5の2で共通するもの

   共通するもの
譲渡の日  〜平成23年12月31日
所有期間  譲渡した年の1月1日現在で5年を超えていること
譲渡資産  個人の居住のように供していたもの
 親族等に譲渡したものではないこと
所得要件  繰越控除をする各年分の合計所得金額が3,000万円以下。

 (損益通算する年度には所得制限はないことに注意。
 つまり所得金額が3,000万円を超えていても損益通算できる。)

他の特例
との関係
 譲渡資産の譲渡をした年の前年・前々年において行った資産の譲渡に
 おいて,他の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けていないこと。

2つの特例とも,譲渡資産に係る譲渡損失があるときは,「当該譲渡資産の譲渡による所得」以外の所得との損益通算及び翌年以降の繰越控除が認められている。〔『ほかの所得との損益通算の禁止』の原則の例外的な措置〕

  41条の5 41条の5の2
買換資産  居住部分の床面積

 50平方メートル以上

 (上限がないことに注意)

 取得要件なし。

 (買換え資産を取得しても
適用を受けることができること
に注意。)

譲渡資産  借入金の残高の有無を問わない  譲渡契約締結の前日に
 借入金の残高があること。 
譲渡損失  全額   「借入金残高−譲渡対価」
        or
  「譲渡損失」

 のいずれか少ないほう

基本事項・居住用財産を買い換えた場合の課税の特例の選択
 譲渡益があるとき → 以下の三つから選択する

            ・買換え特例
            ・3,000万円特別控除
            ・住宅ローン控除

  「収用交換等の5,000万円特別控除」や「代替資産取得の課税の繰り延べ」も
    一定の要件を満たせば可能。

 譲渡損があるとき → 以下の2つを併用できる。

            ・住宅ローン控除
            ・損益通算及び繰越控除


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