税法その他 実戦篇

所得税の過去問アーカイブス 平成元年・問29


土地又は建物を譲渡した場合の譲渡所得の課税に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成元年・問29)

1.「父又は母から相続により取得した居住用家屋で居住期間が30年以上のものを譲渡した場合には,その家屋の所有期間が10年以下であっても,居住用財産の買換えの場合の課税の特例の適用が受けられる。」

2.「個人からの贈与により取得した土地を譲渡した場合のその譲渡所得の金額の計算上控除される土地に係る取得費は,その贈与を受けたときの時価とされる。」

3.「所有期間が10年を超える居住用財産である建物とその敷地の譲渡による譲渡所得税については,他の所得と分離されて,6,000万円以内の部分については10%,6,000万円を超える部分については15%の二段階の税率で,所得税が課される。」

4.「複数の土地の譲渡につき二種類以上の特別控除の適用がある場合の特別控除の総額は,収用交換等の場合の特別控除の適用の有無にかかわらず,8,000万円までとされる。」

【正解】

× × ×

1.「父又は母から相続により取得した居住用家屋で居住期間が30年以上のものを譲渡した場合には,その家屋の所有期間が10年以下であっても,居住用財産の買換えの場合の課税の特例の適用が受けられる。」

【正解:×昭和57年,61年,平成5年,14年

◆特定の居住用財産の買換えの課税の特例は所有期間10年超

 特定の居住用財産の買換えの場合の課税の特例(36条の2)では,譲渡した年の1月1日での所有期間10年超が要件です。

 したがって,「所有期間が10年以下の場合であっても適用が受けられる」とする本肢は×です。

  特定の居住用財産(36条の2)
所有期間  10年超
本人の居住期間  10年以上

2.「個人からの贈与により取得した土地を譲渡した場合のその譲渡所得の金額の計算上控除される土地に係る取得費は,その贈与を受けたときの時価とされる。」

【正解:×

◆贈与等により取得した資産譲渡での取得費

 昭和48年1月1日以降の贈与により取得した土地を譲渡した場合の取得費は,その贈与を受けたときの時価ではなく,贈与者が取得したときの取得費とされています。(所得税法60条1項,基本通達60-1)

 これは,贈与者の取得した時が譲渡資産の取得の時とされ,贈与を受けた者が引き続きこれを所有していたものとみなし,取得費をそのまま引き継ぐとされているためです。

【参考】不動産鑑定士・平成15年・問36・肢4に出題。

●所得税法60条1項
(贈与等により取得した資産の取得費等)

第60条 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第1項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。

1.贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)

2.前条第2項の規定に該当する譲渡

3.「所有期間が10年を超える居住用財産である建物とその敷地の譲渡による譲渡所得税については,他の所得と分離されて,6,000万円以内の部分については10%,6,000万円を超える部分については15%の二段階の税率で,所得税が課される。」

【正解:

◆居住用財産の譲渡の軽減税率

 居住用財産の譲渡の場合の軽減税率(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)は,譲渡年の1月1日での所有期間10年超(長期譲渡所得)に対して適用され,6,000万円以内の部分については10%,6,000万円を超える部分については15%の二段階の税率になっています。

比較

 5年以内  短期譲渡所得  30%
 5年超〜10年以内  長期譲渡所得  15%
 5年超〜10年以内  優良住宅地の造成等の
 ための譲渡の軽減税率
 2,000万円以下の部分 10%
 2,000万円超の部分 15%
 10年超  居住用財産の軽減税率  6,000万円以下の部分 10%
 6,000万円超の部分 15%

4.「複数の土地の譲渡につき二種類以上の特別控除の適用がある場合の特別控除の総額は,収用交換等の場合の特別控除の適用の有無にかかわらず,8,000万円までとされる。」

【正解:×

◆その年中の譲渡については,通算して5,000万円まで特別控除の適用を受けることができる−累積限度額

個人がその年中の資産の譲渡について,2以上の特別控除の適用を受ける場合に,これらの特別控除の合計額が5,000万円を超えるときは,これらの規定により控除すべき金額は,通じて5千万円の範囲内において政令で定めるところにより計算した金額とする。(租税特別措置法36条,基本通達36-1) ⇒ 特別控除

土地建物等の譲渡についての特別控除には以下のようなものがあります。

・収用交換等の場合の5,000万円特別控除

・居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除

・特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の2,000万円特別控除

・特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の1,500万円特別控除

・農地保有の合理化等のために農地を譲渡した場合の800万円特別控除

●租税特別措置法
(譲渡所得の特別控除額の特例)
第36条 個人がその有する資産の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この条において同じ。)をした場合において、その年中の当該資産の譲渡につき、第33条の4第1項〔収用交換等の場合の5,000万円特別控除〕、第34条第1項〔特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の2,000万円特別控除〕、第34条の2第1項〔特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の1,500特別控除34条の3第1項〔農地保有の合理化等のために農地を譲渡した場合の800万円特別控除〕又は前条第1項〔居住用財産の譲渡の場合の3,000万円特別控除〕の規定のうち2以上の規定の適用を受けることにより控除すべき金額の合計額が5千万円を超えることとなるときは、これらの規定により控除すべき金額は、通じて5千万円の範囲内において政令で定めるところにより計算した金額とする。

租税特別措置法施行令

(譲渡所得の特別控除額の特例)
第24条 法第36条第1項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、5000万円の範囲内において、まず法第33条の4第1項の規定〔収用交換等の場合の5,000万円特別控除〕により控除すべき金額から成るものとし、同項の規定の適用がない場合又は同項の規定により控除すべき金額が5000万円に満たない場合には、5000万円又は当該満たない部分の金額の範囲内において、順次法第35条第1項〔居住用財産の譲渡の場合の3,000万円特別控除〕、法第34条第1項〔特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の2,000万円特別控除〕、法第34条の2第1項〔特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の1,500特別控除及び法第34条の3第1項〔農地保有の合理化等のために農地を譲渡した場合の800万円特別控除〕の規定により控除すべき金額から成るものとして計算した金額とする。


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